やっとのことで
イラストは古川アモロ様よりいただきました。
再度、背景が変わってます。
看護師なし、医師なし、他の見舞い客なし!
早朝の院内は静まり返っている。
まるで忍者かスパイだな……と独り胸の内で呟きながら、和泉は浅井梅子の病室に侵入した。彼女は眠っていた。
しかし、人の気配を感じて目を開けたようだ。
「……なんじゃ、また来たんか」
和泉を見ると開口一番、そう言った。
「今日は良いお知らせがあるんですよ」
ふん、と彼女は鼻を鳴らした。
「御柳亭の経営は持ち直します。横領犯もそのうち捕まるでしょう。そうしてみんないつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし……」
「何がめでたいもんか!」
浅井梅子は大きな声で怒鳴った。
和泉は人差し指を唇に当て、しーっと静かにするよう頼んだ。
先日追い返されて以来、看護師に目をつけられている。
「どうしてです?」
「経営が持ち直したからっちゅうて、好きな男と結ばれる訳じゃなかろうよ」
和泉は肩を竦めてみせた。
「それは欲張りというものですよ。あれもこれも、全部願いを叶えることなんて無理でしょう?」
「……」
「いやぁ、実は優秀な会計士を派遣しましてね。そうしたら見事、期待以上の働きをしてくれました。最初からそうすれば良かったですよね。浅井さん、今までさんざんお金と時間を使ってお話を聞きにきましたが、もうその必要もなくなりました。二度とお会いすることもないでしょう。どうぞお元気で」
和泉が踵を返しかけると、
「待て」と声がした。
「あの子は……どうしとる?」
「あの子と言っても、該当者が多すぎてわかりませんね」
浅井梅子は一瞬だけ悲しげな顔をして、すぐにむっつりとした表情に戻る。
「あんた、知りたいことは事件絡みのことばっかりじゃなかろう?」
「ええ、それはまぁ……」
「退院したらいつでも訪ねて来てええ。じゃけん、あの子を連れて来い」
誰だ、あの子って……しかし和泉はなんとなく、誰のことを言っているのかわかる気がした。
病室を出ると携帯電話が鳴りだした。
『彰彦、お前今どこにいる?!』聡介からだ。
「えっと……」
『すぐに戻れ! 事件発生だ』
和泉が最初に思ったことは、久しぶりだな……。
※※※※※※※※※※※※
現場は宮島弥山紅葉谷公園。
第一発見者は地元民の1人で、犬の散歩をしていたところ、犬がひどく吠えたてて飼い主を引っ張るので、不審に思って近づいてみた。
つい最近土を掘り返したような不自然な土の盛り上がりに、嫌な予感がしたと発見者は語った。
もっと近づいてよく見てみると、どうやら人の手の一部のようなものが土の中から出ている。
恐ろしくなって犬の飼い主は駐在所に駆け込んだ。
通報を受けて現場に向かった駐在所勤務の制服警官が土を掘り起こしてみると、中から遺体が出てきた。金髪の白人男性。
彼は急いで所轄である廿日市南署に連絡し、そうして捜査1課高岡班にも事件発生の一報と出動要請が入ったのである。
ジャンル詐欺卒業!!




