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義理の息子は

 明日の予習を手伝ってもらった後は、駿河と二人で将棋を囲んだ。

 周は子供の頃に少し父親から教わったぐらいで、あまりよく覚えていなかったが、その内ルールや進め方がわかるようになって、つい夢中になった。


 気がつけば既に午後5時を回っている。さすがに兄と義姉も帰っているだろう。


 そろそろ帰るな、と周は立ち上がった。

 勝負は途中で行き詰まっているとことだった。

「送って行こう」駿河も立ち上がる。

「いいよ、自転車だし……」

「もう少し一緒にいたい」

「え?」

 どきっ。

「……プリンと」

 なんだ、猫か。

「ああそうかよ、勝手にしな」

 周は恥ずかしいのを誤魔化すために、違う話題を探した。

 が、見つからなかった。

 

 猫を抱えてカゴに入れ、靴を履きながら駿河は言った。

「僕は……君に憎まれていると思っていた」

「なんで?」

「初めて会った時からそうだ。君は僕を、美咲のストーカー呼ばわりしていたな」


 そんなこともあったっけ。

 先日智哉から事の真相を聞き、事実ではなかったことが明らかになったが。

「それについては誤解だってわかったし、嫌いな人間に勉強教えてもらおうとか、料理してやろうなんて考えないだろ? 普通は。そもそも近寄りたくもねぇよ」

「確かにそうだな」

 玄関を出ると外はすっかり暗くなっていた。

 周は自転車に乗らずにハンドルを握って、駿河と並んで歩いた。

「明日から、仕事……だよな?」

「もちろんだ」

「今日は、ありがとう」

「僕の方こそ」

 また遊びに行ってもいい?そう言いかけてやめた。

 なぜか、言わない方がいいような気がした。


※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 11月後半にも入れば日暮れも早い。和泉は車のライトを着けた。

「今日は何事もなく、無事に休みが終わって良かったですね?聡さん」

「そうだな」

「念願かなって、可愛い初孫とのご対面も済んだし」

「ほんとにな……」

「さくらちゃんにそっくりでしたね」

「そうだな、あの顔立ちはうちの家系だ」

 聡介の長女が出産したのは約3カ月も前だが、仕事に追われてまったく様子を見に行くことができなかった。


 ようやく落ち着いて、和泉に今度の日曜日、孫に会いに行くと言ったら、自分も一緒に行くから車を出すと言ってくれた。


 実を言うと聡介はかつて、長女の結婚相手に和泉はどうだろう? と考えていた。

 

 彼が所轄の刑事課に異動してきて、聡介が教育係に任命された時、初めはなかなか打ち解けてくれなかったのだが、次第に心を開いてくれたように思えた頃。

 まだ猫を被っていて、それなりに爽やかな好青年に見えた頃の話だ。


 そこで聡介は和泉をちょくちょく自宅に連れて帰り、娘に引き合わせた。

 デートさせたこともある。

 義理でも、名実共に父子になれたらいいとかなり真剣だった。


 ところが娘には他に好きな男がいて、幸い相手も同じ気持ちでいてくれて、やがて二人は結婚した。

 

 実際のところ和泉が娘をどう思っていたのか、聡介にはまだあまり確信が持てない。

 問えば当然のごとく「好きですよ」と答えるが、この男の言う「好き」はいろいろな他意がありそうで、どういう意味合いなのか計りかねる。


 ただ、もしかしたら本気で……と思うこともある。

 

 ところで長女の夫で、有村優作ありむらゆうさくという男は、和泉に負けず劣らず強いクセのある人物で、今にして思えば和泉だろうが優作だろうが、どちらでも同じことだった。

 娘にそっくりな顔の孫が、中身が父親そっくりな子に育ったら嫌だなぁ、としみじみ思う。


 その時、和泉の携帯電話が鳴り出した。

 事件か?! と思ったが、考えてみれば先に自分へ連絡が入るはずだ。

「聡さん、運転変わってください」

 和泉は車を路肩に停め、携帯電話を手にさっさと降りてしまった。

 運転は好きではないのだが仕方ない。聡介は渋々助手席のドアを開く。


 挿絵(By みてみん)


 和泉は助手席に滑り込むと、急に真剣な顔で話し始めた。

「……落ち着いてください……はっきり周知があるまでは誰にも何も言わように」

 誰と話しているのだろう。

「……わかりました、明日ですね。はい、それでは」

「誰からだ?」

「檀家さんです」

「何か事件か?」

「ま、事件といえば事件ですが、死体は出ていません」

 なんのことだ? どうせ聞いてもはぐらかされるだろう。

 特に事件でないならそれはそれでかまわないが。


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