個人情報ダダ漏れ
居酒屋を出て駿河は自宅に向かう道を歩き出した。
すっかり秋も深まり、外気温が低くなった。
駅前は仕事帰りのサラリーマンやOLが急ぎ足で歩いている。
いつしか彼は美咲に似た姿の女性を目だけで追いかけていた。
そんな自分を咎めるかのように、携帯電話が鳴りだした。
事件か? 駿河が携帯電話を耳に当てると、聞こえて来たのは上司の声ではなく、覚えのない女性の声だった。
『駿河君? 私、森川紗代だけど……覚えてる?』
悪いが覚えていない。
『あー、ひどい。全然覚えてないんだ。中学の卒業式で駿河君に告白して、ふられたこともあるのに』
そう言われても思い出せない。
『安佐北第三中学、3年3組出席番号38番だったんだけどなぁ』
それは確かに駿河の卒業した中学校に違いない。
だが、未だに思い出すことができないでいる。
『駿河君、もしかして今、駅前にいたりしない?』
「……なぜだ?」
『あはは、全然しゃべり方とか変わってないんだね。ねぇ、後ろ向いて見て』
言われるままに駿河が後ろを振り返ると、ベージュのコートを着た女性が大きく手を振っている。
ゆるくウェーブした肩までの長さの髪、ほっそりとした身体つき、遠目に一瞬だけ美咲がそこに立っているのかと錯覚してしまった。
女性は笑いながらこちらに近づいてくると、
「駿河君でしょう? 駿河葵君。あんまり変わっていないね」
ようやく思い出した。
確かに中学時代の同級生に違いない。
顔は化粧のせいか受ける印象が随分変わっていたが、なんとなく面影は残っている。
いろいろと聞きたいこと、言いたいことがあった。
だが、口を突いて出たのは
「どうやって僕の携帯番号を知ったんだ?」
自宅には未だに固定電話を引いてあるから、学生時代の同窓会名簿には番号が残っているだろう。
しかし、駿河がプライベートで使用している携帯番号は家族と同僚、ごく親しい友人にしか教えていないというのに。
すると、森川紗代は興ざめしたような顔で答えた。
「学生の頃のクラス名簿を取っておいたから。駿河君のお家に電話したら、お父さんが電話番号を教えてくれたわよ」
余計なことを。駿河は胸の内で父親を罵倒した。
女性からの電話、ということで何か期待したに違いないのだ。
そんな彼の胸の内を知ってか知らずか、森川紗代は弾んだ声で言う。
「ねぇ時間ある? 久しぶりだし、どこかで一緒にお茶でも飲まない?」
一瞬だけ父親に苛立ったが考え直した。
懐かしい顔と昔話に花を咲かせるのも悪くはない。
駿河は同意し、近くのファミリーレストランへ向かった。




