表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/243

個人情報ダダ漏れ

 居酒屋を出て駿河は自宅に向かう道を歩き出した。

 すっかり秋も深まり、外気温が低くなった。


 駅前は仕事帰りのサラリーマンやOLが急ぎ足で歩いている。

 いつしか彼は美咲に似た姿の女性を目だけで追いかけていた。


 そんな自分を咎めるかのように、携帯電話が鳴りだした。


 事件か? 駿河が携帯電話を耳に当てると、聞こえて来たのは上司の声ではなく、覚えのない女性の声だった。

『駿河君? 私、森川紗代もりかわさよだけど……覚えてる?』

 悪いが覚えていない。

『あー、ひどい。全然覚えてないんだ。中学の卒業式で駿河君に告白して、ふられたこともあるのに』

 そう言われても思い出せない。

『安佐北第三中学、3年3組出席番号38番だったんだけどなぁ』

 それは確かに駿河の卒業した中学校に違いない。


 だが、未だに思い出すことができないでいる。

『駿河君、もしかして今、駅前にいたりしない?』

「……なぜだ?」

『あはは、全然しゃべり方とか変わってないんだね。ねぇ、後ろ向いて見て』


挿絵(By みてみん)


 言われるままに駿河が後ろを振り返ると、ベージュのコートを着た女性が大きく手を振っている。


 ゆるくウェーブした肩までの長さの髪、ほっそりとした身体つき、遠目に一瞬だけ美咲がそこに立っているのかと錯覚してしまった。


 女性は笑いながらこちらに近づいてくると、

「駿河君でしょう? 駿河葵君。あんまり変わっていないね」

 

 ようやく思い出した。

 確かに中学時代の同級生に違いない。

 顔は化粧のせいか受ける印象が随分変わっていたが、なんとなく面影は残っている。


 いろいろと聞きたいこと、言いたいことがあった。

 だが、口を突いて出たのは

「どうやって僕の携帯番号を知ったんだ?」

 自宅には未だに固定電話を引いてあるから、学生時代の同窓会名簿には番号が残っているだろう。

 しかし、駿河がプライベートで使用している携帯番号は家族と同僚、ごく親しい友人にしか教えていないというのに。

 

 すると、森川紗代は興ざめしたような顔で答えた。

「学生の頃のクラス名簿を取っておいたから。駿河君のお家に電話したら、お父さんが電話番号を教えてくれたわよ」

 余計なことを。駿河は胸の内で父親を罵倒した。

 女性からの電話、ということで何か期待したに違いないのだ。


 そんな彼の胸の内を知ってか知らずか、森川紗代は弾んだ声で言う。

「ねぇ時間ある? 久しぶりだし、どこかで一緒にお茶でも飲まない?」

 一瞬だけ父親に苛立ったが考え直した。

 懐かしい顔と昔話に花を咲かせるのも悪くはない。

 

 駿河は同意し、近くのファミリーレストランへ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ