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コストパフォーマンス

 彼はまず外部委託の多さが問題だと指摘した。

 部屋や浴室の清掃はすべて業者に任せている。それから従業員の制服となる着物にかかる代金。

「まず、これだけの人員がいながら清掃を業者に任せるのはなぜだ?」

「体力的にキツイからと、朋子さんが……」

 女将が申し訳なさそうに答える。

「この旅館はキャバクラか? はるばるやってきた客に愛嬌を振りまいて茶を淹れて、酒と料理を出して、それで仕事は終わりなのか」

 美咲はついムッとしたのを顔に出してしまった。


 するとなぜか優作は慌てて、

「いや、今の例えはなしだ」と、言った。

 確かに業務委託は直接雇用の従業員にやらせるよりもコストがかかる。それぐらいのことは美咲にも理解できる。

「それと、なぜ制服にこれだけ金をかけている?」

「それは……朋子さんが、四季折々の柄が入った着物が素敵だからと、特に外国人のお客様は和服を喜ばれるので……」

 優作は手に持っていたボールペンを机の上に投げ出した。

「そういうパフォーマンスは女将一人がやれば済むことだ。従業員全員でやる必要がどこにある?」

 確かに、その点は美咲も気になっていた。

「察するに、あれだな。仲居頭のオバさんが上手いこと社長を言いくるめて、自分の好き放題にして来たって言う訳だ」

 まさにその通りだ。


「あの二人は愛人関係か?」欠伸をしながら彼は問う。

「ああ、そうだ。もう長いこと」松尾が答える。

「……経営に私情を挟むことが一番の問題だ」

 そんなことは誰もが充分過ぎるほどわかっている。


 女将は、里美はそのことでずっと悩んで、誰にも言えないまま、一人で悩んできたのだ。


 思わず泣いてしまいそうになって、美咲は唇を噛んだ。

「そ、それと、料理だが」

 なぜか優作は焦ったように早口でまくしたてる。「板前の数が足りないのか? ずいぶん既製品を仕入れているようだが」

 

 孝太がいなくなってしまってから、料理もだいぶ手を抜いているらしい。そのせいか評判が良くなくて、これではリピーターを増やすどころではない。

「ええ。長く働いてくれていたベテランの板前さんが、一人辞めてしまって……おまけに板長は過重労働で入院していますし。派遣の方をお願いしているんですが、どうも上手く回らなくて……」

「板前か……」

 彼は何かを思いついたようだ。

「俺は、料理に関しては何も言えん。近い内にいい板前を紹介するから、詳しいことはそいつに聞いてくれ」

「はぁ……」

 そこへ再び、社長である伯父が事務所に入って来た。


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