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汚職はサンズイと呼ばれる

「こんばんは、駿河さん。お久しぶりですね」

 突然背後から声を掛けられ、振り返る。藤江賢司だ


 身にまとっているのは高価なスーツだと一目でわかる。

 少し鼻につくオーデコロンの香りが、駿河は気になってしかたなかった。


「まさかこんなところで警察の方とお会いするなんて。まさか、お仕事じゃないですよね? 公職選挙法違反だとか……」

「そういうのは捜査2課の仕事です」

「ああ、そうでしたね。ご専門は殺人事件でしたか」

 近くを通りかかった人が怪訝な顔をする。

 あまりこの場に相応しい話題だとは言えないだろう。

「何か御用ですか?」

 一刻も早く切り上げたくて、駿河は思わずそう言った。


 賢司は少し大げさに肩を竦めてみせた。

「……無粋な方ですね。ご挨拶に決まっているではありませんか。仮にも広静建設社長のご子息であるあなたを無視するほど横柄でも、傲慢でもないつもりですよ」

 この男の話し方といい、仕草と言い、和泉を思い出させて腹が立つ。

「弟が、今でも何かとお世話になっているようですね」

「……こちらこそ……」

「あまり、警察の方にお世話になるような真似はして欲しくないのですが」

 まるで周が非行少年であるかのような言い草に、駿河は感情を乱された。

「あの子は、真面目で品行方正です」

「そうですか、そう言っていただけると……」

 明らかに信じていない、というか本気にしていない。

 自分の弟だろう?!


「ところで、今日はお一人ですか?」

 賢司は駿河のまわりを見て尋ねた。

「……どういう意味ですか?」

「いえ、駿河さんほどの素敵な男性を、世の女性達が放っておくはずはないと思いまして。どなたかお連れがいらっしゃるかと……」

 駿河が何か言いかけた時、先ほどのエメラルドグリーンのドレスを着た外国人女性が突然、彼の腕を取って早口の英語でまくしたて始めた。

「……?」

 英語だということはわかるが、何と言っているのかはさっぱりわからない。

 彼女は駿河の耳元にそっと囁いた。

「このまま会場を出ましょう」日本語だ。

 そのまま女性に腕を組まれた状態で外に出る。


 会場を出ると、女性はぱっと手を放してまわりを見回した。

「あなたは……?」

 すると女性は息をつき、

「美咲が、泣き出しそうな顔であなたのことを見てるから、何事かと思って様子を見ていたの。そしたら、なんだか彼女のご主人とケンカでも始まりそうな雰囲気だったからこれはまずいと思って……」

 上手な日本語だ。

「……美咲のお知り合いですか?」

 そう言えば先ほど、美咲と楽しそうに話していたのを見た。

「うーん、知り合ったのはごく最近かな。名前を知ったのはついさっき」

 それから女性は悪戯っ子のような笑顔を浮かべて、

「何かいろいろ訳ありみたいね?」

「……」

「あ、誤解しないで。私、決して面白がったりしていないから」

 どうだかわかるものか。

「いまいち信用できないみたいね?」

 内心を言い当てられて驚く。

 先ほどのことといい、駿河はいつも以上に感情を表に出さないよう努めていたつもりだ。

「いいのよ、別に。会ったばかりの人間の言うことを信じろって言う方が無理な話だわ。それにしてもあなた、意外と感情が表に出るわね?」

 まさか。

 駿河は驚き、何も言えないでいた。

 

 努めて内心は表に出さないでいるつもりだ。実際、同僚達からも何を考えているのかわからない、とさんざん言われている。

 それなのに……。

「すみません。でも……ありがとうございました」

 駿河は頭を下げた。今はすっかり冷静さを取り戻している。


 女性はニコッと微笑むと、

「私、ビアンカっていいます。今日は父の代理で来ているの。あなたのお名前は?」

「駿河です、駿河葵」

 またね、葵。ビアンカはパーティー会場に戻った。


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