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彼にロリコンの気配は皆無である

 添乗員篠崎智哉の計画によれば昼食の後は、買い物の時間となっている。

 女の子達は嬉しそうだが、男の子達は少し退屈そうだ。

 智哉と円城寺は女性陣のお守りを周に任せ、小さな弟達を連れてどこかへ行ってしまった。


 周はそっと姉の横顔を見守った。

 ストラップや土産のお菓子を見ている彼女は楽しそうだった。


 それにしても、外国人が多い。あちこちから日本語ではない言語が聞こえてくる。

 そのせいか店員達も英語で対応している。

 世の中も随分変わったものだ……。


「ねぇ、周君。お隣にお土産買って行かない?」美咲が言った。

「……こんなとこの?」

「いいじゃない。こういうのは気持ちなんだから」

 はいはい、と周は並んでいる土産物の箱を眺めた。


 今さらもみじ饅頭を土産に、というのもなんだが、果たして和泉は何が好きなんだろう。


 そういえば元奥さんとはどうなったのだろう?


 これにしよう、と美咲が手に取ったのはもみじ饅頭の詰め合わせ。

「……もみじ饅頭なら、佐藤製菓のチーズが一番だって言ってたよ、和泉さん」

「そうなの?!」と姉は箱を元に戻した。

 それから彼女は佐藤製菓のチーズもみじを探して購入した。

「ねぇねぇ、周君」

 くいくい、と智哉の妹である絵里香が周の袖を引っ張る。

「……これとこれ、どっちがいいかな?」

 彼女は手に牡蠣の貝殻を被ったキティちゃんと、厳島神社の鳥居を頭に被ったドラえもんのストラップを握りしめている。

「誰のお土産?」

「……友永さん……」

 ああ、あの品の悪い刑事か。

 どっちだっていいよ、と言いたいのを堪え、周はドラえもんだと答えた。

「じゃあ、お兄ちゃんがキティちゃんで、友永さんがドラえもんにする」

 彼女はとたとたレジに向かって歩いて行った。


 しばらく友人の携帯電話には、キティちゃんがぶら下がっていることだろう。

 想像したらおかしくなった。

 

 円城寺の妹である鈴音は、先ほどからハンカチを品定めしている。

 いずれもキティちゃんがプリントされたご当地限定物だ。

「キティちゃん、好き?」

 周が鈴音に話しかけると、彼女はびくっと震えて振り返った。頬が赤い。

「う、うん……」

「鈴音ちゃんて、猫好き?」

 鈴音は頷く。

「じゃあさ、今度お兄ちゃんと一緒にうちに遊びにおいで。猫が二匹いるから」

「……いいの?!」

 もちろん、と周が微笑んで彼女の頭を撫でると、ますます顔が赤くなった。


 その時、

「アキヒコ!」と男の声が聞こえた。

 和泉がどこにいるのだ?! と、周は思わず辺りを見回した。

 

 見ると、先ほどの白人男性が美咲の方へ近づいている。

 まさか自分のことだとは露も考えていない美咲は、まったく気付かずに土産物を選んでいる。

 

 もう一度白人男性はアキヒコ、と姉に呼びかけた。

 気配を感じて振り返った美咲は、再び驚いて短い悲鳴を上げた。

 

 白人男性は謎の言語でペラペラと何か話している。英語もそれ以外の言語もさっぱりわからない周だが、彼が姉を口説いていることだけはなんとなくわかった。

 

 人妻は英語でなんて言うんだ? と、周が考えながら近づこうとした時、今度は日本人男性が白人男性を止めに入った。

「いい加減にしろ、アレックス!!」

 しかし白人男性は鼻を鳴らし、日本人男性の肩を小突いた。

 へぇ、こいつアレックスっていうんだ……。


 二人の会話から時折聞こえてくる単語で、どうやら日本人男性が『シンイチ』ということらしいのはわかった。

 シンイチは戸惑っている美咲にひたすら頭を下げ、白人男性を店から連れ出した。

「姉さん、大丈夫?」

「ええ……」

「えらく気に入られたみたいだな、あの外人さんに」

「何を言っているのかさっぱりわからなかったわ」

 美咲はふぅ、と息をついた。

「やっぱり、英会話続けた方がいいんじゃないか? これから外人の客も増えるんだろうから、もう少し話せた方が……」

 あくまで営業を継続する方向を前提に、周は言った。

 

 あきらめるもんか。

 どうしようもなくなったって足掻いてやる。


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