いいんです。
川平さん風に読んでください。
ああいう人だとわかっていたが、いざ自分が被害者になってみると、たまらなく気分が悪い。
どうしてあの人はああなのだろう?
病院から帰って後、駿河はずっと和泉と一言も口を聞かなかった。
向こうはつまらない用件で何度か話しかけてきたが一切無視した。
班長が何か問いたげな顔でこちらを見ている。
理由はどうあれ、先輩を殴ってしまったのは事実だ。処分は免れられない。
いっそ自分から上司に事の次第を話しておこう。
そう思って駿河が立ち上がった時、携帯電話が鳴りだした。父親からだ。
刑事部屋を出て通話ボタンを押す。
どうせロクな話じゃないだろう。
『葵か、明日は当番じゃないな?』
「……またお見合いの話ですか?」
すると電話の向こうで父親はくくっと低く笑った。
『見合いがしたいのか?』
「違うのならいいです。忘れてください」
『月曜日の夜、田代先生のパーティーがある。お前、わしの名代で出席してくれ』
「……」
政治家の『○○先生を励ます会』、いわゆる資金集めパーティーに父親の代わりに出席しろと言われたことは初めてではない。今まで上手く断れたのは、事件の最中で本部を離れられないからという大義名分があったからだ。
しかし今はこれといって事件を抱えていない。
『時間は午後7時、場所はセントラルホテル紙屋町だ』
「……明日までに何も事件が起きなければ……」
『平和を祈る』
電話を切って自席に戻る前に、駿河は班長のデスクに寄った。
「あの、班長……」
「彰彦のバカが何を言ったのか知らないが、気にするなよ?」
「……え?」
「お前が手を上げるぐらいだから、よほどのことだったんだろうな」
溜め息をつきながら班長は、駿河の肩にぽんぽんと触れる。
何も言えなくなってしまった。
「処分は……」
「始末書なら彰彦に書かせる。お前は被害者だ」
いいのだろうか?と思ったが、もう何も考えないことにした。




