オジさん会議
薫さんとマリコさん
朝から、なんとなくうさこの様子がおかしい。
やたらにチラチラと和泉の方を見ては、溜め息をついている。
今までにこんなことはなかった。
彼女はどちらかというと、和泉を苦手にしているようであり、それに対して息子の方はまったく何とも思っていない……そんな関係性に見えた。
しかし、今日は何かが違う。
今朝だって、全員分のお茶を入れて配った彼女は、なぜか妙に和泉の席の横で時間をとっていた。
もしかして?!
ほとんど読んだことはないが、少女漫画で見るあれか?
最初は反発し合っていたのに、いつの間にか気になるアイツってやつで、そのうち恋愛感情が芽生えて……。
いいことじゃないか。
あのバカ息子もいい加減、もう一度身を固めてくれれば、少しはこっちの胃痛の原因も減るのではないだろうか。
相手がうさこなら何も問題はない。
むしろ、同じ職場の仲間同士である方が望ましい。
聡介は嬉しくなって思わず、だったらさっそくデートの手筈でも……と思って和泉に声をかけようと立ち上がりかけたが、
「聡さん」
刑事部屋の入り口に、鑑識課の相原警部補が立っていた。
「昼飯は済んでるか?」
ふと時計を見ると正午を過ぎていた。
「いや、まだだが……」
「ちょっと話があるんだが、いいか?」
鑑識課の相原警部補とは同期で、何度か同じ所轄で働いたことがある。
所轄時代から何かと無理を言っては引き受けてくれた気心の知れた相手である。彼はなぜか聡介と和泉が二人でいると『親子丼』と呼ぶ。
二人は県警本部を出て大通りを渡り、商店街の一画にある定食屋に入った。
「めずらしいな、相原さんから声をかけてくれるなんて」
相原はおしぼりで顔を拭きながら、ぐいっと水を一気に飲み干した。
「なぁ、お前さんの息子のことなんだが……」
「彰彦のことか?」
相原は頷く。
「今のところ、女の影はあるか?」
話というのはそのことだろうか?
どういう理由でいきなりそんなことを訊いてくるのか、聡介には謎だった。
不思議そうな顔をしていると、
「実はな、うちの平林郁美なんだが……わかるか?」
「ああ、わかる」
何度か現場で見かけたことがある。
女性にしては比較的背が高く、長い黒髪の女性だ。
「実はな……和泉に気があるらしいんだ」
「えっ?! そ、それは本当なのか……?!」
ついさっき、うさこがそうなのではないかと思って喜んでいたので、やや複雑な気分になってしまった。
「間違いない、本人からそう聞いた」
驚いた。
しかし、確かにあの息子は黙っていれば、女性が放っておかない美形ではある。
あくまで『黙っていれば』の話だが。
「なんとかできないだろうか?」
相原は真剣な顔をしている。
「なんとかって……」
「あいつは俺の娘みたいなもんだからな、なんとか上手く行くように取り計らってやりたいんだよ。だから、和泉の父親であるあんたにこうして頼んでるんだ」
自分が和泉を息子と思っているように、彼も部下である彼女を娘のように思っているのだ。
相原は部下を大切にする男だ。
聡介にも相原の気持ちはよく理解できる。
が、うさこは……?
運ばれてきた料理に手をつけながら、鑑識課の班長は続ける。
「まぁ刑事と鑑識だからな。一度事件が起きりゃ、ロクにデートの約束もできんだろう? テレビでやってる科捜研の何とかってやつみたいに、刑事と一緒に聞き込みに回らせる訳にもいかんしな……」
それはそうだ。
そう言う意味で言えば、うさこの方が彼女よりもやや有利な立場にいるということになる。
コンビを組ませれば否応なく一緒にいる時間は長い。
「話はわかった。しかしこればっかりは、本人の意思の問題だからな……」
聡介はふと、長女の顔を思い出した。
「しかし、和泉のどこがいいのかねぇ? 顔か?」相原は言った。
さぁな、と答えつつ聡介はこれ以上、この話を膨らませるのはよそうと考えた。
よく土曜日の昼に再放送してますよね。




