進路について悩んでいます
昼の休憩時間のことだ。
昨日買った本を周が必死で読んでいると、周、と智哉が声をかけてきた。
「今度の水族館行きのことで……どうしたの? その手」
「猫に引っかかれたんだよ」
「猫って……動物の猫ちゃん?」
「他に何があるって言うんだよ」
妙なことを言うものだ。
「……ごめん、もしかして飲み屋のお姉さんかなって……そんな訳ないよね、未成年なのに」
思いがけないことを言い出す友人に、周は愕然となった。
「智哉、お前……あの友永って人と親しくなってから確実に品が悪くなったよな?」
「友永さんは良い人だよ!」
「そういう問題じゃない」
「周だって、和泉さんに似てきたじゃないか」
「どこが?!」
「時々、似てるなぁって思うことあるよ。裏に何かありそうな笑い方とか……」
心外だ。
自分はいつだって裏も表もなく、真っ直ぐに生きているという自覚がある。
でも……似ていると言われて悪い気もしないのもまた、事実だったりする。
そんなことよりも、と周は言いかけたことを話すように智哉を促した。
「計画をざっと立ててみたんだ。水族館って言ってもはあんまり規模が大きくないみたいだから、すぐに見終わるみたい。小さい子が多いし、男の子と女の子じゃ興味の対象も違うから、時間を決めて別行動でもいいかなって」
でね、と智哉は周の前でノートを広げた。細かい文字で詳細な時間と行動予定が書き込まれている。
「すげぇな、これ……」
「もちろん予定通りには絶対に行かないから、その都度変更するだろうけどね」
周は智哉の意外な一面を見た。
「お前、こういうの得意?」
「嫌いじゃないって言うか、むしろ楽しい」
「ツアーコンダクターとか、旅行添乗員になれるんじゃないのか?」
「いいかもね」智哉は笑った。「そういう周は進路、決めたの?」
ふと来週の三者面談のことが頭に浮かんだ。
「うん……」手っ取り早く大金が稼げる仕事、なんて言えない。
少し前までは県警を目指すか、保育士を目指すかで迷っていた。
でも今は、傾いた旅館の経営を建て直すために何をしたらいいのかで悩んでいる。
「もしかしてファイナンシャルプランナーとか、会計士とか目指すの?」
読んでいた本を見て、智哉が訊ねる。
「……そんなんじゃねぇよ。ただ、姉さんのことが心配で……」
「お姉さん?」
「とにかく、宮島行きのことはお前に任せた」
そして彼は買った本を開いて没頭し始めた。
挿し絵に一部、誤りあり……ぐはっ!!




