女子会は楽しい
「……遅い!!」
顔を合わせるなり、平林郁美は厳しい目でこちらを睨んできた。
今日は仕事が終わったら飲みに行こう、と結衣は彼女と約束していた。
しかし、夕方になって思いがけず結衣が提出した書類の不備が見つかり、修正に時間がかかってしまい、約束していた時間に間に合わなくなってしまった。
優しい上司は、何か約束があるのなら、他のことは明日に回して良いからと言ってくれて、ようやく結衣は退庁できた。
急いで郁美と約束していた店に急行する。
鑑識課に所属する、同期の女性警官である彼女と結衣は暇を見つけては一緒に食事をしたり、飲みに行ったりする仲である。
先に来ていた郁美はチューハイのグラスを片手に、既に一杯やっていた。
ごめんごめん、と平謝りで席につき、結衣は店員が持って来てくれたおしぼりを温かいおしぼりを受け取る。それから生ビールを注文した。
はぁ……と一つ息をつく。
「忙しそうね、刑事さんは」
「鑑識だってそうでしょ? 今日はよく上がれたわね」
非番だったの、との答えになんだ、と言って結衣はメニューを広げた。
生ビールが運ばれて来た。
乾杯を交わして一口喉に流し込む。
しばらくは他愛のない雑談を繰り広げていたのだが、アルコールがほどよく回ってきた郁美は、やや据わった目で突然言い出した。
「で……? こないだは、お手柄のご褒美に高岡警部とデートだったんですって?」
「で、デートっていうほどじゃ……」
お待たせしましたー、こちら鶏の唐揚げになりまーす。
揚げたての唐揚げが運ばれてきて少し話は中断した。
先日、宮島口で発見された男性の他殺体。
身元がすぐに判明し、スピード解決に至ったのは、結衣の記憶力が要因の一つでもあった。
その日の夕方、班長がケーキを食べに連れて行ってくれたのは事実である。
「いいわねぇ~羨ましいこと! こっちにだって、少しは幸せをわけてもらいたいもんだわ」
唐揚げにレモンを絞りかけ、郁美は大きな塊を一気に頬張る。
えっと……と、結衣は誤魔化す為におしぼりで頬を拭いた。
実をいうと以前から散々、郁美に頼まれていたことがある。
どうにか和泉と一緒に食事なり、飲み会なりの機会をセッティングできないだろうか。
そう、彼女は和泉に片想いしているのである。
どういうきっかけで知り合い、どこがいいのかはさっぱりわからない。
結衣が捜査1課高岡班に異動することになった時、郁美の開口一番が『和泉さんの連絡先を教えて!!』だったことを覚えている。
もちろん結衣だって忘れたことはない。
が……。
実を言うと結衣は、けっこう本気で和泉のことが苦手なのである。
悪い人ではないことだけはわかる。でもなんていうのか、プライベートな用件で声をかけるのが、ものすごくためらわれるのだ。




