再会したものの
イラストは一条えりん様からのいただきものです。
いい感じでしょ?!
和泉は誰もいないのに一人でニコニコ笑いながら、ヒマつぶしに買ってきた週刊誌を広げていた。
仕事しろよ、とツッコむ人は誰もいない。
ああして、自分を頼ってくれる周が可愛くて仕方ない。
誰かに必要とされていること、守りたいと思う対象がいることは彼にとって、深い満足を覚えさせてくれることだった。
しかしそんな甘美で優雅な気分をぶち壊すかのように、内線電話が鳴り始めた。
誰が出てよ、と思ったが誰もいない。
知らないフリをしようかと思ったが、万が一かけてきたのが課長あたりだったら、バレたら後が面倒くさい。
仕方ない。
「はい、捜査1課……」
『……彰彦さん?』
誰だ?
自分をそんなふうに呼ぶ相手に今のところ心当たりはない。
悪戯だろうか?
しかし内線電話をかけてきていることから察するに、それほど暇な警官はいないと思う。
「どちら様?」
和泉は自分で淹れた熱い緑茶を啜った。
『一階まで降りてきて、今すぐ!!』
その口調と声には確かに聞き覚えがある。
ものすごく嫌な予感がした。
受話器を元に戻し、和泉は少し迷った挙句に逃走することを決めた。
とは言っても当番を放棄するわけにはいかない。
今日一番機嫌の良さそうな仲間を呼びつけて、代わってもらうことにしよう。
そうだ、うさこ!
和泉は結衣の携帯番号に電話をかけた。が、留守番電話になってしまう。
その後、他の同僚達にもかけてみたが、まるで示し合わせたかのように誰の電話もつながらない。
今、事件が起きて呼び出しがかかったらどうするつもりだ?!
その時、彼は気付いていなかった。今時の電話にはナンバーディスプレイ機能が標準で設置されていることに。
そうこうしているうち、内線電話が催促の鐘を鳴らす。
和泉の別れた妻が最近、聡介の家の前をずっとうろついているという話を聞いたのは、つい今朝の話である。
同じ階の住民が近くの交番に届け出たのだそうだ。
通報を受けて駆け付けた地域課の巡査は、その女性が前の県警本部長の娘であり、かつて和泉の妻だったという話を聞いて、上司にそのことを報告したらしい。
それが巡り巡って今朝、ようやく和泉の耳にも入った。
もしかして周も彼女を見ただろうか?
ああ、嫌だなぁ……。
こっちに何の相談もなく勝手に離婚を決めて、車以外全部持って行ってしまった上、置き手紙だけで挨拶の一言もなかったくせに。
和泉は渋々1階ロビーに降りてみた。
相手はこちらに背中を向けていた。赤いコートにハイヒール、きっとアウトレットではない正規品のブランドバッグ。相変わらずだ。
わざわざ自分から声をかけることもないだろう。
気付かないならそれはそれで……と和泉はこっそり刑事課の部屋に戻ろうとしていた、が、そうは問屋が下ろさなかった。
「彰彦さん!」
かつて戸籍上妻だった女性……今は旧姓に戻って本間静香となっている……は、駆け寄って来て抱きつこうとした。
振り返って和泉は思わず、身をかわす。
「や、やぁ……久しぶり……」
壁沿いに後ずさりながら和泉は作り笑いを浮かべた。




