猫に日本語
猫に日本語が理解できるわけもないが、なんだか悪口を言われたような気がしたのだろうか。
メイは爪で周の手の甲に、真っ赤な川の字を書いた。
「……大丈夫? 周君……」
「しみる……」
「メイちゃんは女の子なんだから、あんなこと言っちゃだめよ」
周の手に包帯を巻きながら美咲は言った。だから相手は猫だっつーの。
「あ、あのさ……」
なあに? と、普段通りの返事がかえってくる。
すっかり気持ちは落ち着いていた。
たぶん、お互いに。
「さっきはごめん。俺、すっかり混乱してて……」
「私こそ、ごめんなさい。あまりにも急だったわよね」
救急箱をしまいながら美咲は言った。
「でも、俺の考えは変わらないから。簡単にあきらめるなよ! もしかしたら、何とかなるかもしれないだろ?!」
「うん……」
「姉さんの働いてる姿が、世の中で一番綺麗だって思うから」
美咲は眼を丸くして弟をまじまじと見つめた。
なんか今、ものすごく恥ずかしいことを言ったんじゃないか……?
「そ、それに何より、俺達には和泉さんっていう、強い味方がついてるんだからな!」
そうね、と微笑んだ彼女の目尻にうっすらと涙が光った。




