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別れたらタダの人

 その時だ。

「静香さん……?」

 エレベーターホールから歩いてきたのは聡介であった。

 今仕事帰りなのか、スーツにネクタイという格好をしている。

「周君、美咲さんも。いったい何が?」


 すると元妻は立ち上がって聡介の元に走り寄り、詰め寄った。

「高岡さん! あの人は、彰彦さんはここにいるんでしょう? 会わせてください!!」

「……今日は、ここには戻りません」

「嘘! だって……」

 聡介は一つ溜め息をつき、

「あなたも警察官の妻だったならわかるでしょう? 今は特にどの署にも帳場は立っていません。明日は非番です」

 それが、和泉の居所を知らせるヒントだと周は気付いた。

 しばらく元妻は考え込んでいたが、何かに気づいたらしく走り出した。

 

 彼女の姿が見えなくなると、

「すまない、こんなことに巻き込んでしまって」聡介は周に向かって頭を下げた。

「高岡さんが謝ることありません!」

「彼女が何度もここを訪ねていたのは聞いていたが、まさか君にまで迷惑をかけていたなんて」

 猫達は聡介の足にまとわりつき、嬉しそうに鳴く。

「今の女の人、和泉さんの別れた奥さんですよね?」

「……知っているのか?」

「ええ、まぁ。和泉さんの姿を見かけたら、連絡くれって頼まれていて……」

 聡介は器用に足元の二匹を両腕で抱えた。

 メイもプリンもごろにゃんと喉を鳴らしている。

「そんなことまで……」

 彼があまりにも申し訳なさそうな顔をするので、周は戸惑ってしまった。

「あの、俺なら別に平気っていうか、その……」


 さっきの女性……和泉の別れた妻は、かなり行動的なタイプだと思われる。

 おそらく今、和泉がいる県警本部へ向かったのだろう。


 彼はなんて言って別れた妻に声をかけるのだろう? 妙なことがひどく気になった。


「やり直したいのかな……? 和泉さんは、どう思ってるんだろう」

 そうして、周はほぼ無意識のうちにそう呟いていた。

 が、聡介の不思議そうな視線を受けて我に帰る。

「……はっ! いや、あの、別に俺、それが嫌だとか困るとか言ってるわけじゃなくて、えっと……!」

「あいつが何を考えているのか、俺にもわからんよ」だろうな……。「ま、当分ここから出ていくことはなさそうだが」

「どうしてです?」

「……俺が引き留めているからな」

 にかっ、と彼は笑った。

 本当かどうかはわからないが、周もつられて笑った。


「それにしてもこの子、随分腹が大きくなったみたいだが……そのうち子猫でも産まれるのか?」

 聡介は茶トラの猫を見てなぜかそう言った。

 メイが太り気味なのは前からだが、この頃はちょっと走ると息が上がるほどにまでなってしまった。

 そこで周は答えた。

「そんなことないですよ。それは、ただのデブです」

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