信頼
自分が当たり前のように信じていたこと。
兄は決して自分を疎んじたりしていない。
父と同じように可愛がってくれている。
義理の関係だと思っていた義姉が、実の肉親だったこと。
それがすべて、偽りだったと知ってしまった今は……。
「……どうして?」
さっきから『どうして?』ばかりだ。
周は自分でもおかしくなって苦笑した。
「僕はね、自分を信じてくれる人のことは決して裏切らない」
和泉のその台詞に、周は微かな違和感を覚えた。
まるでその後に『自分は誰のことも信じないけれど』と、続くような気がして。
考え過ぎだろうか。
しばらく、二人の間に沈黙が降りた。
「ねぇ、和泉さん」
バックミラーに後部座席で丸まっているプリンの姿が映っている。
目を合わせず、周は鏡越しに三毛猫の方に視線を向けて言った。
「和泉さんは、信じていた誰かに裏切られたこと、ある……?」
しばらく返事はなかった。
「……ごめん、変なこと訊いて」
「あるよ」
和泉の返事はシンプルだったが、重みがあった。
驚いて周は思わず、彼の横顔を見つめる。
「ものすごく深く、傷ついたことがあるよ」
余計なことを訊くんじゃなかった。
苦い思いが胸に広がる。
「ごめん、なさい……」
「謝らなくていいんだよ」
和泉はこちらを見てはくれなかったが、優しい声でそう言ってくれた。
「今でも傷は癒えていないけど……でもね。いつでも、何も言わなくても優しく包んでくれる人がいるから……生きていける」
「それって、高岡さん……?」
すると彼はこちらを向いて、ニコっと微笑んだ。
「もちろんそうだよ。でもね、それだけじゃない」
和泉が手を伸ばし、周の頭をそっと撫でてくれる。
「周君に出会えたこともそう。前にも言ったことがあるけど、僕にとっての君は太陽みたいなんだ。温かくて、力強くて……眩しい」
本気で言ってる? そう問いかけようとして、やめた。
本気だと信じたい。
僕はね、と和泉の手が頬に降りてくる。ごつごつとした大きな手だ。
「周君ほどの可愛い子に会ったことなんて、今まで一度だってないよ」
「か、可愛いって言うな……」
そうだよね、と和泉は笑う。
「周君も美咲さんも、出会えて良かったって心から思える、大切な人達だよ」
周は思わず腕を伸ばして、彼に縋りついた。
今だけはきっと、少しぐらい泣いたって許されるんじゃないか……。




