約束
「……プリンだよ」
「そうだったね。じゃあフルネームはプリン・アラ・モードかな?」
不意に周は背中と両肩に温もりを感じた。そして柑橘系の爽やかな匂い。和泉だ。
「寒いでしょ? 周君」
振り返ると、和泉が笑っている。
「なんで、ここがわかったの……?」
「そこはほら、僕も刑事だからさ」
というかもはや『和泉だから』で論理は成り立つのではないだろうか。
これ着たらいいよ、と彼は周の背中に自分のジャケットをかけてくれる。
温かかった。
車に乗ろう? と言われて、周は素直に従った。
公園のすぐ傍に、見慣れた和泉の車が停まっている。
周は腕に三毛猫を抱いて、助手席に乗り込んだ。
車内はやはり暖かい。
「なんか久しぶりだね、いつ以来だっけ? 周君、試験期間中だったし、僕も何かとバタバタしてて。会えて嬉しいよ」
はい、と和泉は温かい缶コーヒーを差し出してくれる。
周は礼を言って受け取り、しばらくそのぬくもりに浸ることにした。
確かに会って話をするのは久しぶりかもしれない。
仕事から、捜査から離れると和泉は途端に優しくなる。
「ところで、今日はどうしたの? 久しぶりに美咲さんとケンカした?」
周は苦笑するしかなかった。
「いろいろ、びっくりするような話ばっかり聞かされて、パニックになって……気がついたらここにいた」
「……もしかして、出生の秘密とか?」
整った綺麗な顔立ちが間近に迫る。
周は思わず目を逸らした。
「……そんなとこ、かな。ここんとこあまりにもいろいろありすぎて、なんか……」
和泉は前を向き直し、静かな口調で言う。
「美咲さんが、周君の実のお姉さんだったってこと知った?」
驚いた。
「なんで……?」
「ごめんね、実はいろいろ聞いているんだ。君や美咲さんに関する本当のことをね」
「誰から……?」
「石岡孝太さんから」
姉の幼馴染みであり、旅館の板前だった優しい人。
あの事件の後、回復した彼はどこでどうしているのかを周は知らない。
「孝太さん?」
なぜだろう……?
「彼はね、本気で美咲さんのことを愛していたよ。だから、僕に彼女と周君のことを守って欲しいって言ってくれた……」
和泉は真っ直ぐにこちらの眼を見つめて答えてくれた。
いつもと違って、どこまでも真剣な顔つきだった。
「どうして……」
「詳しいことは、今はまだ話せないけど。彼は僕を信じてくれた。だから僕は、彼に約束したんだ。必ず君達を守るって」
信じる。
今の周にはその概念がひどく曖昧であやふやで、掴みどころのないもののように思えてならなかった。




