PとN
車で10分ほどの場所に大型のショッピングモールがあり、そこには割と全国的に有名な書店がテナントを出している。
平日の夕方である今は、社会人の姿が多く見られる。
【ビジネス】と書かれたコーナーに足を運び、周は主に経営再建などのテーマを扱っていると思われる書籍を幾らか購入した。
気休めかもしれない。
でも、何もしないではいられなかった。
レジで会計をしながら周は、今日はもう面倒だから夕飯は惣菜を買って帰ろう、と考えた。
義姉さん、と美咲に声をかけようとした周だが、彼女がとあるポスターの前で固まっていることに気付いた。
何を見ているんだ?
不思議に思って覗きこんでみると、とある映画の告知ポスターだった。
警察官の制服を着た若い男性と、若い女性が並んで映っている。
煽り文句に【私の好きな人は警察官でした】と書いてある。
……なんで、こんなポスター貼っておくんだよ!!
周は誰にもぶつけることのできない文句を胸の内で呟き、行こう、とやや乱暴に美咲の手を引っ張って本屋を後にした。
帰り道、ぽつりと美咲が言った。
「……ありがとうね、周君……」
助手席の周は黙っていた。
が、ふと思い出す。
「あ、あのさ……そういえば。智哉が計画してくれた宮島水族館の話だけど。そんな気分じゃなければ、無理しなくたっていいからな?」
すると義姉は驚いた顔でこちらを見る。
「ううん、行くわ。だって、一度も行ったことないし……」
「地元民のくせに?」
「……水族館ができたのは、私が働き始めてからだいぶ時間が経過してからだもの。それに、地元の人ってそういうものよ」
あいつとデートで行ったりしなかったのかよ? なんて、聞きかけてやめた。
基本的にデートコースに地元は選ばないだろう。
「それにね……私、お友達と一緒に出かけるなんて、あまりなかったから嬉しいの」
驚いた。
彼女はいったい、どういう学生時代を送っていたのだろう?
周のまわりの同級生と言えば、週末にどこへ行くとか、何をして遊ぶとか、そういう話題で盛り上がっていることがほとんどだ。クラブ活動をしている生徒なら、今度は遠征でどこへ行く……だとか。
「義姉さんて、いつからあの旅館で働いてたの?」
「……さぁ、いつからだったかしら?」
周は美咲の横顔を見つめた。
思えば彼女に関しては、本当に知らないことの方が多い。
いままでどんなふうにして生きてきたのか。
友達はいるのか、親はどんな人だったのか。
一人だけ、友達の存在については聞いたことがあるのを思い出した。
顔も名前も知らないけれど。
ただ、なんとなく。
ごく普通の、ありきたりな、平凡な少女時代ではなかっただろうな……と、そんな気がした。




