表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/243

PとN

 車で10分ほどの場所に大型のショッピングモールがあり、そこには割と全国的に有名な書店がテナントを出している。

 平日の夕方である今は、社会人の姿が多く見られる。


【ビジネス】と書かれたコーナーに足を運び、周は主に経営再建などのテーマを扱っていると思われる書籍を幾らか購入した。

 気休めかもしれない。

 でも、何もしないではいられなかった。


 レジで会計をしながら周は、今日はもう面倒だから夕飯は惣菜を買って帰ろう、と考えた。

 義姉さん、と美咲に声をかけようとした周だが、彼女がとあるポスターの前で固まっていることに気付いた。


 何を見ているんだ?


 不思議に思って覗きこんでみると、とある映画の告知ポスターだった。

 警察官の制服を着た若い男性と、若い女性が並んで映っている。

 煽り文句に【私の好きな人は警察官でした】と書いてある。

 

 ……なんで、こんなポスター貼っておくんだよ!!

 

 周は誰にもぶつけることのできない文句を胸の内で呟き、行こう、とやや乱暴に美咲の手を引っ張って本屋を後にした。


 帰り道、ぽつりと美咲が言った。

「……ありがとうね、周君……」

 助手席の周は黙っていた。


 が、ふと思い出す。

「あ、あのさ……そういえば。智哉が計画してくれた宮島水族館の話だけど。そんな気分じゃなければ、無理しなくたっていいからな?」

 すると義姉は驚いた顔でこちらを見る。

「ううん、行くわ。だって、一度も行ったことないし……」

「地元民のくせに?」

「……水族館ができたのは、私が働き始めてからだいぶ時間が経過してからだもの。それに、地元の人ってそういうものよ」

 あいつとデートで行ったりしなかったのかよ? なんて、聞きかけてやめた。

 基本的にデートコースに地元は選ばないだろう。


「それにね……私、お友達と一緒に出かけるなんて、あまりなかったから嬉しいの」

 驚いた。


 彼女はいったい、どういう学生時代を送っていたのだろう?

 周のまわりの同級生と言えば、週末にどこへ行くとか、何をして遊ぶとか、そういう話題で盛り上がっていることがほとんどだ。クラブ活動をしている生徒なら、今度は遠征でどこへ行く……だとか。

「義姉さんて、いつからあの旅館で働いてたの?」

「……さぁ、いつからだったかしら?」

 周は美咲の横顔を見つめた。


 思えば彼女に関しては、本当に知らないことの方が多い。

 いままでどんなふうにして生きてきたのか。

 友達はいるのか、親はどんな人だったのか。


 一人だけ、友達の存在については聞いたことがあるのを思い出した。

 顔も名前も知らないけれど。


 ただ、なんとなく。

 ごく普通の、ありきたりな、平凡な少女時代ではなかっただろうな……と、そんな気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ