なでなで
結衣の記憶は間違っていなかった。
被害者は麻薬密売人として組織対策犯罪課から目をつけられていた男で、やはり暴力団関係者の手によって口を封じられたのだ。
入念な聞き込みと目撃情報、組織犯罪対策課との連携により事件はスピード解決を見た。
「よくやった。お手柄だぞ、うさこ」
班長は笑顔でそう言ってくれた。
「いえ、たまたまです……」
「ガイシャの身元がすぐに割れたからだ。今回は本当に、お前のおかげだな」
結衣は手放しで褒めてくれる上司を少し信じられない思いで見つめた。
前にいた所轄の刑事課の上司は決してこんなふうに褒めたり、労ったりしてはくれなかった。
それどころか、部下の手柄を自分のものにしようとすることさえあった。
「聡さん、うさこちゃんの頭を撫でてあげてください」
「……こうか?」
和泉に言われるまま、班長は結衣の頭を撫でてくれる。
かーっと全身の血が顔に集まってしまう。
嬉しいけど恥ずかしい。
お茶淹れてきます! と、結衣は急いで給湯室に向かった。
一人になると給湯室の壁にもたれて深く息をつく。
初めて高岡警部に会った時は、どこか頼りなさそうで、人が良さそうで、こんな人に刑事が務まるのかしら?と感じたものだ。
だが、一緒に仕事をしている内、そのイメージがまったく間違っていたことに気付かされた。
案外と熱血漢だし、人心掌握に長けている。
何よりあの変人和泉が、彼の言うことなら比較的大人しく従うのだ。
下品な話題が嫌いで、部下達を全員、本当の息子のように思ってくれて、基本的には優しく、でも時には厳しく。
結衣が彼に魅かれるのにそう時間はかからなかった。
班長はバツイチとはいえ独身だ。
何の遠慮もなくアタックできる……と思っていた、が。
結衣が全員分のお茶を淹れて刑事部屋に戻ると、
「なぁ、うさこ。今日、仕事が終わったらケーキでも食べに連れて行ってやろうか?」
相変わらずご機嫌な顔で班長はそう言ってくれた。
「悪いな、酒が飲めないもんだから。本当は飲みに連れて行ってやるって言えたら良かったんだろうが……」
「と、と、とんでもないです! ケーキ、大好きです!!」
「班長、俺もー」と、友永が余計な口を挟む。
結衣は思わず彼を睨みつけてしまった。
「……友永さん、今日は息子さんと何か約束してましたよね?」
思わぬ助け船が駿河からやってきた。
「智哉と……?」
「間違いありませんよ。わざわざメール見せてくれたでしょう」
そう言い切られて不安になったのか、友永は黙ってしまった。
デートだ、デート!
向こうにそんなつもりは少しもないだろうけど、これはまたとない機会ではないか。
ああ、こんなことならとっておきのワンピース着てくるんだった!!




