これから取調べです。
とりあえず、お礼は言います。
と、藤江賢司はいかにも言いそうなことを口にした。
「別にいりません。税金分、働いただけですから」
次に彼が言うであろう台詞を予測し、先回りして和泉はそう答えておいた。
ひどく暑い。
いますぐこのアサルトスーツを脱いでしまいたい。
「それよりも、お仕事はいいんですか?」
和泉がそう声をかけると、彼は顔をしかめた。
「私も弟の危機に……仕事をしているほど非情ではありませんのでね。あなた方刑事さんは、そうではないのかもしれませんが」
いちいち神経に触ることを言う。
和泉はいらだったが、この男とやりとりをするのもたいがい面倒なので、とっとと背を向けてしまった。
彰彦、と向こうから父が呼びかけてくる。
ものすごく嬉しそうだ。それは犯人を逮捕できた喜びというより、和泉の無事な姿を見て安心した様子に見えた。
正直言って、どんな顔をしていいのかわからない。
和泉は普段こそあんな調子だが、実を言うと先ほどのような、命のやりとりがかかるような場面で真面目に心配されると、少し調子が狂ってしまうのである。
「聡さん、西島進一は確保できたんでしょう? 急ぎましょう。奴からは聞きたいことが山のようにあります」
早く、と急かしても無駄だった。
「よくやってくれた! 全員無事で……何よりだ」
「……はい」
「おい、手柄を挙げた褒美に何でも好きなもの、食わせてやるからな」
背中に触れる父の手が温かい。
生きているんだな、と和泉は改めて感じた。
向かい合って座った西島進一は、どこか放心したような顔をしていた。
いわば抜け殻のような。
小さな窓が一つだけある、取調室と言う名の四角い部屋。
最初に住所と氏名、職業などの個人情報を確認する。しかし進一は黙って頷くだけで、言葉を発することはほとんどなかった。
聡介はじっと彼の目を見つめた。
綺麗な色をしている。犯罪者の瞳は濁っている、と思う人が多いかもしれないが、実際のところそれはただ単に健康上の話である。どんな極悪犯でも、身体が健康なら瞳は澄んでいるものだ。
むしろ瞳にあらわれるのは心の内側。
目は口ほどに語る、というが、それは真実だと聡介も思う。
今の西島進一は人生を賭けた一大プロジェクトが失敗に終わって放心している、そんな目をしていた。
「アレックス・ディックハウトを殺害しましたね?」
「……」
「なぜですか?」
「……それが、可奈子の遺志だからです」
「遺書か何か、のこっていたんですか?」
「そうです」
「可奈子さんについて、詳しくお話してください……」




