同期のよしみ
現場に到着すると鑑識が既に作業を始めていて、ブルーシートに覆われていた。
野次馬を掻き分けてロープをくぐる。
いつもこの瞬間は微かな優越感を覚えてしまう。
だが、鑑識の作業が終わるまではシートの中に入れない。
所轄の刑事達が既に臨場しており、1課で最初に到着したのは駿河のようだった。
結衣はいつも不思議に思う。
この人、いつ寝てるのかしら?
「班長達はまだですか?」
「先ほど、渋滞にはまったので少し遅れるとの連絡があった。廿日市南署刑事課の班長の指示に従えとのことだ」
結衣が少し離れた場所に視線を向けると、腕に『捜査』の腕章をはめた中年男性が指示を出しているのが見えた。
所轄の班長は50代ぐらいの、いかにも叩き上げのノンキャリアという風貌の男性である。
こちらに気づいた相手は厳めしい顔で一課の面々を眺める。
それから結衣で視線を止めると、途端に侮蔑の色が浮かんだのがわかった。
しかし今はそんなことはどうでもいい。
結衣はさりげなく鑑識員達の姿を見回した。そして、見つけた。
声をかけるのはやめておこう。いくら初任科の同期で友人だからといって、作業中に話しかけたりしたら叱られる。
結衣は中腰の状態で鑑識作業に集中している、平林郁美の姿を黙って見守った。
郁美は県警に入った当初から鑑識課を希望していた。
念願かなって鑑識課員になれた時には、結衣もささやかながらお祝いをしたものだ。
鑑識が作業の終了を教えてくれる。
「どんな具合だ?」
所轄の班長は紺色の制服を着た若い鑑識員に声をかけた。
「周辺に争った形跡がないので、どこかで殺害されて遺棄されたのでしょう」
「死因は?」
「撲殺です。全身に殴打の後がありましたが、致命傷になったのは頭部の傷です。凶器は特定に時間がかかりそうです……」
「身元は?」
「一切が持ち去られています。とりあえず、ご覧になりますか?」
刑事達は全員、遺体が置かれている場所へ向かった。
まだ若い男だ。殴打されたせいであちこちが腫れあがって、もはや原型をとどめていない。
これは身元が判明するまで時間がかかる。
そうなると、事件は長引く……。
と、思ったのだが。
「……あ!」
「どうした? うさこ」
「この人……確かこないだ、組織的犯罪対策部の坪井課長が探してた……何とか組の麻薬密売人じゃありませんか?! 写真見せられたの、覚えてません?」
日下部は首を傾げる。
駿河もじっと遺体の顔を見つめている。
「言い方は悪いですけど、こないだ組対が逮捕し損ねて、血眼になって探してるっていう……」




