シスコン仲間
「そんな時でも、進一君は可奈子にずっと優しかった。私は彼女を妬みました。どうして彼は、可奈子じゃなければダメなんだろう、ってどんなに考えてもわからないままでした」
私にもわかりません。
こればかりは、どんな科学者でも解明できない謎だろう。
「それから二人で同じ音大に進んで……そして私に留学の話が来ました」
「ドイツに、ですね?」
やっと核心に迫りつつある。
結衣ははやる気持ちを必死で抑えた。
「可奈子にも話はあったのですが、お金を理由に無理だと諦めていました。でも進一君のお祖父様が、是非にと再び援助をしてくださったのです」
「え……」
亜沙子は首を横に振る。
「けどその理由は決して、善意ではありません。可奈子を進一君から遠ざけるために、手切れ金のつもりだったのです」
「手切れ金……?」
「彼は本気で可奈子を愛していました。でも、彼の祖父様はそれを許さなかった。だから遠くにやってしまえ、そういうことです」
「か、可奈子さんは? 彼女は進一氏をどう思っていたのですか?」
「はっきりとはわかりません。ただ……弟みたいなものだと言っていました。だからでしょうね、援助をいただけるとわかった可奈子はすぐ留学を決めました」
一瞬だけ、結衣は西島進一に同情を覚えた。
「それから……ドイツで何があったんですか?」
三村亜沙子の目に涙が浮かび始める。
それまでずっと黙っていた新里が、彼女の肩に優しく触れた。
大丈夫、と答えて彼女は指で目をぬぐった。
「私達は、ビアンカに……そして彼女のフィアンセだったアレックスに出会いました」
その名前が出た時、結衣は思わず大きな声を出しそうになってしまった。
とうとう来た。
「可奈子は……すぐアレックスに夢中になってしまいました。男性から優しい言葉をかけてもらったのは初めてだ、と喜んでいましたから。でも私は正直言って、いいことだと喜んでいました。このまま可奈子がアレックスとうまくいけば、進一君が私を振り向いてくれるかもしれない。そんなふうに考えましたから……」
結衣には外国人男性の知り合いはいない。
ただ、少しぐらいは知っている。日本人男性ならそんな台詞を口にしようものなら即刻『チャラ男』と認定されてしまうようなキザな台詞でも、たいして抵抗なく口にするであろうことを。
まして可奈子はおそらく、亜沙子という美女の日陰を歩いてきた女性だ。
亜沙子なら言われ慣れているであろうことを、初めて男性から言われた可奈子がどう感じたかなんて、容易に想像がつく。
「でも……アレックスは可奈子を少しも愛してなどいませんでした。優しい言葉をかけはするけれど、それはみな、上辺だけのものでした」
「あの、もしかして……」
結衣はふと、頭に浮かんだ考えを口にした。「アレックス氏は、あなたに言い寄ってきたりしませんでしたか?」
亜沙子は無言で頷く。
だから余計だろう。
可奈子はきっと亜沙子と張り合いたかった。対等な立場に立ちたかった。
「それでも可奈子は彼を盲目的に愛し、信じました。だから彼の家が傾きかけた時……彼女は高校生の頃からずっとアルバイトをしていて貯金があったそうなのですが、それらをすべて彼に渡してしまったんです」
結衣は思わず泣いてしまいそうになった。
そんな、あまりにも哀れではないか。
「アレックスは……そのことに味を占めたんです。日本人女性は少しでも優しく、甘い言葉をかければすぐにお金を出す、とインプットされたのでしょう。完全に実家が没落した時、彼は即、来日を決めたそうです。日本には知人……ビアンカもいる。だからです」




