血統書付き
「ねぇ周君、見てこれ」
進一はアルバムを持ってきて開いてみせた。
見たことがあると思ったら、彼の実家の庭のようだ。還暦祝いの写真のようだ。
真ん中に年配の男性、そしてその家族と思われる人達、あとはもしかして使用人たちだろうか?
複数人が並んで映っている。
進一の両親と思われる男女、そして少女が2人、そして幼い頃の進一。
「……この女の子達は?」
進一はおかしそうに笑う。
「気づかない? 亜沙子さんだよ」
言われてみれば確かに面影がある。
「あ、確かに……じゃあ、こっちは?」
すると進一はしんみりとした口調で答えた。
「可奈子。僕の……亡くなった恋人だよ」
この人が……周はまじまじと写真を見つめ直した。
並んで写っている二人の少女は、実に対称的だ。
亜沙子は笑顔だが、可奈子は何が気に入らないのか、ムッツリしている。
顔立ちそのものもそうだ。彫りが深く美しい亜沙子に対し、可奈子はいかにも地味な顔立ちであった。
「可愛いでしょ?」
それが可奈子の方を指して言うなら、周は正直なところ同意しかねた。
造作がどうこうというより表情に問題がある。
笑っていればきっと、無理なく同意できただろうに。
携帯電話が鳴りだす。
しつこいなぁ……と、進一は舌打ちしてから電話に出た。
「もしもし? 今から周君に思い出話をするんだから、邪魔しないでよ。じゃあね」
彼は携帯電話をソファの上に投げ出し、周に向き直る。
それから、
「この人が可奈子のお父さん。そっくりでしょ?」
端っこに恐縮した様子で映っている中年男性を指差す。
「なんでお母さんに似なかったんだって、可奈子はいつもぼやいてたな。お母さんは綺麗な人だったから。でも……そんなことは関係ないよ。僕は可奈子が好きだった」
「……なんで?」
素朴な疑問である。顔だけで言うなら、亜沙子の方が数倍魅力的だ。
「僕のこと守ってくれたから。生きていてもいいんだ、って教えてくれたから」
進一は微笑む。
「どういう……?」
「前に話したよね、僕も決して真っ当な生まれじゃないってこと。実はうちの父親、長男でさ。何人か兄弟がいて、従兄弟もいるわけだけど……従兄弟達はみんな、両親とも立派な家柄なわけ。だけど僕はこの子と同じ、雑種だからさ……」
彼はソファの隅で丸まって目を閉じていたキジトラの子猫を抱き上げ、頬ずりした。
「……わかるよ、俺だってそうだもん」
周も応える。
「従兄弟たちは言ってみれば血統書付き。でも僕はそうじゃない。子供でもわかるんだよそういうのって。だからよくイジメられたな。そんな時、可奈子だけがいつも僕のことを庇って、助けてくれたんだ。正義感の強い子だったんだよね。大人達は皆、見て見ぬフリなのに、彼女はずっーと僕の味方だった。だから決めたんだ。大人になったら、僕が彼女を守るんだって」
ね? と進一は子猫の鼻先に鼻をくっつける。
「でも……親はそれを許さなかった。可奈子が運転手の娘だから、そういう理由で」
周は少し不思議に思った。
彼の母親は元々、愛人の立場だったと聞く。であれば息子の味方になってくれてもよさそうなものだが。
「けど僕はそんなこと何も関係ないから、って彼女にプロポーズしたんだよ。ただ可奈子は……返事をくれる前にドイツに留学しちゃった。そうしてそのまま、墓場に行っちゃったんだよ……」
挿し絵と本文に若干のズレが……(汗)




