そして騎士様はお姫様の救出に向かう
「どうして?! なんで私ばかり、こんな辛い思いをしなければいけないの?! 誰か助けて、周君……!!」
「わかったわ、命に替えてもあなたの弟は取り返すから」
落ち着いた声でビアンカは言った。
「ど、どうするつもりですか?!」
驚きに、こっちの方が声を上擦らせてしまう。
「私が人質になるよう、交渉します。刑事さん、現場に連れて行ってください」
本気だ。
伊達や酔狂、思いつきなどではない。
どうしよう? 自分の判断で勝手に動く訳にはいかない。
「ビアンカ……! 私も、私も一緒に行く!!」
美咲が叫ぶ。
「ダメですよ、そんな!!」
思わず結衣も叫んだ。
すると、
「わかった、僕も一緒に行こう」今度は賢司がそう言いだした。
「な、何言ってるんですか!? ご主人!!」
彼はこちらを見つめてきた。
冷たい目だった。
「失礼ですが私は警察を、警察官を一切信用していません。弟は必ず助ける、などという口約束など信じられない。この場でじっと救いを待つような真似はしません……そうであれば、自分で現場に出向いて、進一君を説得するなり……自分にできることをします」
その時だった。
応接室のドアが開き、アサルトスーツに身を包んだ和泉が入ってきた。
「和泉さん……!!」
その格好は? と訊きかけて、結衣は口をつぐんだ。
彼が真っ直ぐに視線を向けている先は、どうやら藤江賢司のようだ。
「あなたが我々を信頼しようがしまいが、そんなことは関係ありません。我々は全力で周君を助け出す。もっとも、危険の少ない場所に近づくぐらいは止めませんがね……くれぐれも邪魔だけはしないでください。我々は非常時における適切な対応方法を知っている、訓練を受けたプロなんです」
「……」
「和泉さん!! 周君を、周君を助けて!!」
美咲は彼に駆け寄り、そう叫びながら縋りつく。
「もちろんです。必ず……助けると約束します」
和泉はそう答え、彼女の肩に触れる。
その眼差しはとても優しかった。
しかし、
「藤江賢司さん。大人しくしておいてください。下手な真似をすると、今度はあなたが公務執行妨害で逮捕されますよ?」
彼女の夫に対して向けた台詞はとても冷たく、どこか皮肉にも聞こえた。
そんな結衣の頭の中を知ってか知らずか和泉は、
「うさこちゃん、三村亜沙子の方を頼むよ」
「は、はい!」
そうだった。彼女からも『事情』を聞かなければ。




