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感情のおもむくままに

「少し落ち着け、お前ら」

 和泉達は西島進一のマンションを管轄する、広島北署内の一角に待機していた。

「指示があるまではじっとしていろ」


 そう言われても、苛立ちと不安は隠し切れない。


 それは和泉だけではない。


 駿河も同様、めずらしく落ち着かなそうに部屋の中をウロウロと歩き回っている。


「じゃあ、友永さんは人質になったのが智哉君だったら、そんなに冷静でいられるんですか?!」

 和泉は思わず感情のおもむくまま、大きな声を出してしまった。


「……すみません」


 友永はいつもと変わらない様子で答える。

「謝ることはない。もし人質が智哉なら、今のお前と俺の台詞は入れ換わってた」

 日頃は自分と同じく、どこまで本気なのかイマイチつかめないでいる、元少年課の刑事は真剣な顔でそう言った。


「ただ、焦るな。俺達に今できるのは、班長からの指示を待つ、それだけだ」


 わかっている。

 自分の考え、感情のままに動くことがどれほど危険か理解している。


 それでも平静でなどいられない。


「……それより、家族の方は?」

「先ほど、北署に到着したらしいです。今、うさこちゃんが……」


 美咲の元に連絡が行き、彼女がすぐに出かけたらしいことは和泉も聞いている。


 今、どんな気持ちでいるだろう?


 そう考えたら気が気ではなかった。


「おい、葵。間違ってもお前は出ていくなよ……?」

 友永は相棒にそう警告した。


 恐らくだが彼女の夫も一緒に来ているだろう。

 まさか、弟の命の危機に知らんぷりをして仕事をしていたりはすまい。


 友永の言うことはいちいちもっともだ。


 今、自分以上に駿河は冷静さを欠いているはずである。

 彼は一瞬弾かれたような反応を見せたが、すぐに何ごともなかったかのようにいつもの無表情へと変化した。



「上はいったい、どういう遣り取りをしてるんだろうな……?」

 日下部がぽつりと言った。

 

 身体は大きいくせに小心な刑事だが、実はいざという時、誰よりもどっしりと構えていられて、冷静であることを和泉は知っている。


 実は刑事よりも自衛隊か消防の方が向いていたんじゃないか、なんて時々秘かに思ってしまうけれど、決して口には出すまい。彼も今は大切な仲間の1人なのだから。


「期待だけは、してはダメです」

 和泉がそう言い放つと、全員がぎょっとした顔を見せた。


 構わず続ける。

「僕達が信じていいのは聡さん……高岡聡介警部、ただ一人です」


 幹部達など信じてはいけない。

 父ならきっと間違いなく、正しい判断を下してくれる。


 その時、扉が開いた。

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