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砂を吐く

「進一には、心から愛する女性がいました」

 ビアンカは悲しそうにそう、話し始めた。


「でも彼女は亡くなりました。理由は……自殺です」


「……原因はなんです?」

「アレックスです。あの男が彼女を……身も心も殺してしまったんです」


「その、彼女の名前は?」

「可奈子です、沖田可奈子おきたかなこ。進一とは幼い頃からずっと一緒に育ってきた、仲の良い姉弟みたいなものだと聞きました」


 間違いない。うさこが入手した写真に映っていたあの少女のことだ。


「私はこちらで高校を卒業した後、大学はドイツに……母国の学校に進学しました。ちょうど父も本社に帰ることになって、一緒に帰国していた期間がありました」


 聡介は黙って彼女の話に耳を傾ける。


「そんなある時、私は向こうで三村亜沙子と沖田可奈子という二人の日本人女性に会いました。2人はバイオリンの勉強のために留学してきていた友人同士でした」

 2人は実に何もかもが対照的でした、と彼女は語る。


「簡単に言ってしまえば、亜沙子は良家のお嬢様で、とても綺麗な女性でした。反対に可奈子はお金持ちの家の運転手をしているお父様を持つ、ごく平凡な女性です。それでも2人は気が合うようで、仲良くしていました。少なくとも始め、私はそのことを疑いませんでした」


 なるほど、生まれ育ちと外見という意味での『対照』か。


「実はうちの父は……大のクラシック好きで、いずれ自分の楽団を立ち上げたいと考えているような人でした。二人の才能に目を留めた父は彼女達をよく自宅に招待するようになり、そうして……私の家によく出入りしていたアレックスと、彼女達は知り合いになりました」


 当時、アレックスの家は既に危ない状態だったという。


「可奈子は……あっという間に、アレックスに夢中になりました。でも彼は……彼が興味を示したのは亜沙子の方でした。こんな言い方は本当に失礼なんですけど、外見だけで言えばそれは……亜沙子の方が男性の好意を得るであろうことは明白でした。それに元々、バイオリンのために留学してきていたのです。亜沙子はアレックスを相手にしていませんでした。でも、それが却って彼の関心を深め、可奈子の競争心を煽ったのかもしれません……」

 女性同士というのは、とビアンカは続ける。


「表面上で仲良くしていても、裏では互いの悪口を言い合う、なんていうことはごく日常のことです。ただ亜沙子は決して、私に可奈子のことを悪く言ったりしませんでした。でも可奈子の方はどうも、ずっと亜沙子にコンプレックスを持っていたようでした。だから余計でしょう、アレックスの興味を引こうとして……」


「可奈子さんは、アレックス氏のどこがそんなに良かったのでしょうか?」

 思わず聡介は訊ねた。


「本人から直接聞いた訳ではありませんから、推測になってしまうかもしれませんけれども。可奈子は幼い頃からずっと、外見のことで随分とからかわれたらしいです。肌荒れがひどかったこともあったらしくて、心に深い傷を負っているようでした。アレックスは……彼にとっては挨拶代わりの【可愛いお姫様】っていう言葉が、彼女の心を掴んでしまったんです」


 日本人男性なら絶対に言わないな、ホストでもない限り。


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