お呼び出し申し上げます
駿河と友永のコンビは福山に向かって急いでいた。
相棒は運転が好きではないのか、それとも人に運転させて自分は携帯電話をつつきたいのか、いずれにしろ運転席には駿河が座っていた。
階級は同じでも経験と年齢から逆らえない。
今朝早く、橋本美帆と名乗る女性から電話があった。
初めは誰だったか思い出せなかったが、話しているうちに記憶が甦ってきた。
詐欺被害者の1人だ。
福山駅前のカラオケボックスで事情聴取したことを思い出す。
話したいことがある、これから少し会えないか、と彼女は言った。
断る理由はない。
むしろ、訊きたいことはたくさんある。
駿河は了承し、友永と一緒に福山へ向かっている。
仕事場近くにある喫茶店で、と指定された。
朝の早い時間、喫茶店はサラリーマンやOLでやや混み合っている。が、ある程度は人の多い方がいいのだろう。
橋本美帆を見つけた駿河達は彼女の向かいに腰を下ろした。
「朝早くにすみません」
いいえ、と相槌を打ってからやってきた店員にコーヒーを注文する。
眠気覚ましにカフェインが欲しい。
「ニュースを見て……いろいろ考えて……それから」
彼女はあれこれさんざん悩んだ末に、結論を出したと言った。
「あなたなら、信頼してもいいかと思って……」
それはありがたい言葉だ。駿河は礼を述べて、水を飲んだ。
「アレックスが通り魔に殺されたっていうのは、本当なんですか? 刑事さんもそう考えているんですか?」
思いがけない質問に戸惑う。
駿河は視線だけで隣に座る相棒を見つめる。お前が相手しろ、と無言の返事。
「……なぜです?」
「だって……」
彼女は無意味にカップの中のコーヒーをかき回し、
「被害に遭った女性の内の誰かがきっと……って、そう思ったから」
素人がそう考えるのなら、警察は余計にそう考える。
「……なぜです?」
あなたも殺そうと考えたことがありますか? そう問いかけてやめた。
「私だって、彼を殺してやりたいと思ったことがありますから」
すると思いがけず、相手からそう本音が漏れる。
駿河は驚き、一瞬だけ言葉を失った。
『殺意』を軽々しく口にすべきではない。それは後の裁判時において、かなり重要なポイントになるのだから。
「……聞かなかったことにします」
橋本美帆は首を横に振る。
「いいえ、本気で計画を立てました。いっそ彼と一緒に死のうと思い、毒物を用意したこともあります……」
「橋本さん……」
「でもそんな時、進一君とビアンカさんが私を訪ねて来られたんです」
話が思いがけない方向に進んで行く。
「西島進一と……ビアンカさんというのはもしや……」
駿河もその名前と人物を知っている。
「進一君はアレックスの知人で、ビアンカさんは元フィアンセだそうです」
「なぜ、その2人が……?」
店員がコーヒーと紅茶を運んでくる。
駿河は熱いままそれをブラックで啜った。




