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不埒な真似は許しません

 少しして、記憶が甦って来た。


「あ!! こいつ、そうだ!! あの時、おじさんの彼女と一緒に……!」

「周君、何を知っているの?」


 いつの間にか和泉が身体ごと、周の方を向いている。


「ついこないだ宮島の旅館に行った時……おじさんの彼女に、やたらカメラを向ける無礼な奴がいて、そいつと一緒にこの男が近づいてきたんだよ!!」


 忘れていない。

 なんだかカメラ男が彼女に男を引き合わせたような、そんなふうにさえ見えたことを今でも覚えている。


 大好きなおじさんの大切な彼女に手を出そうとする不埒者。


 周の中では既にそう情報がインプットされている。


「ああ、そうか。どこかで見たような気がすると思ったら、あの時の……こいつ、本当に警察の人?」

 周が口を出すと、なぜか和泉にテーブルの下で手を強く握られた。痛い。


 黙っていろ、ということだろうか。


 仕方ないので周は飲みかけのコーヒーを飲むことにした。


「失礼しました、新里さん。質問を変えます。三村亜沙子さんはそもそも、いつから今の楽団にいるのですか?」


「だいたい三年前です。バイオリニストは人気が高く、面映ゆい話ですが、うちの楽団はわりと演奏者のレベルが高く、もちろん彼女の腕は確かでしたが……スポンサーをしてくださっているハイゼンベルク氏という方の知人だということで、初めはコネだのなんだのといろいろ言われました。でも、そんなつまらないヤジなどあっという間に吹き飛ばしてしまうほど、彼女の演奏は素晴らしかった……」

 うっとりと語る新里を見つめる和泉の目は、とても優しかった。


「本当にお好きなんですね。彼女と、彼女のバイオリンが」


 新里は少し顔を赤く染め、そうして気まずそうにまた煙草の入ったポケットに手を入れようとした。


 いけないと思ったのか、手をテーブルの上に戻し、


「それですから……いろいろとハッキリさせておきたいのです。私は、彼女が何か犯罪に手を染めたなどと考えていません。でも、もし何かあったとすれば……それを知りたい」


「お気持ち、お察しします」

 和泉はそう言ってコーヒーを一口啜った。


 それから新里を真っ直ぐに見つめると、

「ただ……刑事の中にはあなたを疑う人間もいるかもしれません。いや、既に疑っている人間もいます」

「私を……?」

 新里は心外だ、という表情を見せた。


 周だって信じられない。


「なんでだよ?!」

「ほら、そう噛みつかないの。三村亜沙子さんは、内情はどうあれ、アレックス氏に騙された訳です……その恨みを晴らすべく、恋人であるあなたに始末を頼んだ……そういうことを考える刑事もいるということですよ」

「確かに……そうですね」


 思わず周は和泉の横顔を見た。

「和泉さんはどう思ってるんだよ?」


 すると彼はちら、とこちらに視線を向けて来たかと思えば

「なーいしょ」

「……」


 そろそろ行かないと、と時計を見て新里は立ち上がる。

「また何か伺いたいことがあるかもしれませんので、いつでも連絡が取れるようにしておいてください」

 和泉は言ったが、

「はい、できる限りは。しかし、演奏中はどうしても……」

 承知しています、と刑事は答える。


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