疑い出したらキリがない
新里は苦しそうに、
「最近、なんとなく他に男がいるんじゃないかという気がして……」
どくん、と心臓が嫌な音を立てた。
随分悩んでいるように見えたのは、そのせいだったのか。
「何か、そのような気配がありましたか?」
「実は昨日……私と亜沙子は大阪にいました。仕事が終わった後、一緒に夕食をという話になったんですが、急に彼女に電話がかかってきました。電話の相手はすぐ近くにいたらしくて……あまり時間を置かずに我々の前にあらわれたんです。若い男性でした」
新里は悲しそうに言った。
「それから……亜沙子はその男性と、どこかへ行ってしまったんです」
なんで引き留めないんだよ?! と、叫びそうになって周はぐっと黙った。
このおじさんの性格的に、そういうことが無理なのはわかっている。
「彼女はその男性のことを、あなたに何とお話しされたんですか? まさか、黙って去って行った訳ではないでしょう」
「……警察の人だ、と言いました。詐欺事件のことで相談に乗ってくれている人で、これからその話をするのだ、と」
「詐欺事件って何……?」
周が不思議に思って口を挟むと、後でね、と和泉に遮られてしまう。
ムっとしたが黙っておく。
「それで、あなたはその話を信じたのですね?」
「……半信半疑、と言ったところです。亜沙子がアレックス氏にお金を渡していたのは私も知っていましたし、警察に被害届を出したのも知っていましたので。ただ、おかしいとは思いました。どこの警察署に届け出を出したのかは知りませんが、なぜ今、この場所にこのタイミングで……? と」
確かにおかしな話だ。
詳しいことはわからない周にも、その奇妙さだけは感じられる。
「ちなみに初め私と亜沙子は、食事を終えたら新幹線で名古屋に帰る予定でした。いえ、一緒に暮らしている訳ではありませんが……新幹線のチケットも購入していましたし、私は先に新大阪に向かって彼女を待っていました。そうしたら、出発の10分ほど前になって今夜は大阪に泊まるから……と連絡がありました」
苦しそうに話す新里を見ていて、周も心臓を掴まれたような気分になった。
色恋沙汰に関してはまったくのお子様だという自覚がある自分にだって、簡単に想像がついてしまう。
おそらく亜沙子はその夜、その男と一緒だったのだ、と。
「元々、なんというか……三村亜沙子さんは恋多き女性ということでしょうか?」
砂糖とミルクを少しづつコーヒーに入れてかき混ぜながら、和泉は訊ねる。
「いえ、アレックス氏があらわれるまでも、彼女に好意を寄せていた男性は複数いました。けど、まったく相手にしませんでしたね。楽団の人間関係とは意外と狭いものでして、これは確実な話ですよ」
「ところでもしや、警察官だというその男は……この人ではありませんか?」
和泉は手を止め、ポケットからスマートフォンを取りだした。
そうして写真を見せる。
Vサインをしている和泉の横で、やや困惑顔に映っている男の顔に、周は見覚えがあった。
「ええ、この人です」
新里は答えた。
整っているが、どこか冷たい印象を与える顔立ち。
どこで見たんだっけ?




