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三顧の礼

 お前は諸葛孔明か!? と、和泉はガラス戸を蹴飛ばしたくなるのを必死で堪えた。


 浅井家を訪ねるのはこれで三度目。今度はちゃんと指定された店のもみじ饅頭を買って午後6時半には訪ねたのだが、これから見たいテレビ番組があるからと今日もドア越しに玄関先で追い払われた。


「何を知りたいんかしらんが、あんたもえらく熱心じゃのう」

 やっぱり石の一つぐらい投げ込んでも許されるのではなかろうかと、和泉が思わずしゃがみかけた時、先日声をかけてきた元刑事の料理人が後ろに立っていた。

「晩飯がまだなら、うちで食うていけばええ。わしが知っとる限りのことなら話してやるけぇの」

 どうやら話好きなオジさんらしい。


 今日ほんまは定休日なんじゃけどな、と暖簾の出ていない店のドアを開けて和泉を中に招じ入れてくれた。

「浅井さんはのぅ、地元の学校の先生じゃったんよ。わしと一緒で宮島生まれ宮島育ち、この島のことなら何でも知っとる婆さんじゃ」

 八塚やつづかと名乗った元刑事は残りものしかない、と言いながら新鮮な魚を使った料理を提供してくれた。

 世話好きでもあるらしい。


 彼は和泉の向かいに腰かけると、

「あんたもしかして、時効寸前の事件を調べる特別捜査官か?」

「まぁ、そんなところです」

「で、何を知りたいんじゃ?」


 和泉は口を噤んだ。

 詳しいことを話していいのかどうか、判断がつきかねたからだ。

 彼が駿河の元同僚であることはいい。

 が、敵なのか味方なのかまではわからない。

 あの若い刑事はそれほど人付き合いが上手ではないが、自分と違って無闇に敵を作るタイプとも思えない。

 

 すると。

「……若いのぅ、顔に出とるわ」

 そう言って向かいに座る元刑事はニカっ、と歯を見せて笑う。

「あんた、ワシが駿河の敵か味方か、推し量っとるじゃろ。安心せぇ。本人から聞いてみればいい。ワシはあいつの味方じゃけん」

 信じていいのだろうか?

「というかワシがあいつを立派な刑事に育てたんじゃからの。それもあって、駿河の奴から仲人を頼まれたぐらいじゃけん」

 最後の一言が決め手となった。

「……御柳亭で約20年前にあったとされる、横領事件です」

 旅館の名前を聞いた瞬間、相手の表情が強張った。


「20年前の横領って……そんなもん、とっくに時効じゃろうが」

「事件そのものは、確かに今さら起訴はできません。ですが、その事件のせいで一人の女性が……人生を狂わされました。彼女を愛する男性も然りです」

 八塚はじっと和泉の眼を見つめてきた。

 狭い取調室で向き合っているような気分になる。

「誰が犯人なのかよく調べられもしないまま、横領犯の娘と一方的に汚名を着せられ、周囲から白い眼で見られました。おまけに今、その旅館に閉館の危機が迫っています。それが現実になれば、何もかも彼女のせいにされるでしょう。彼女の父親さえあんなことをしなければ……と」

「あ、あんたは……寒河江美咲の……?」

「友人です」


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