コーヒー屋さん
なんとなく約束の時間より早く到着してしまった。
しかし、新里の方も早く来ていた。
開いている店はあるだろうか? 落ち合った二人はしばらく、本通り商店街を歩くことにした。
それにしても今朝、洗濯物を干している間に感じた悪寒はなんだったんだろう?
風邪でも引いただろうか。
「懐かしいな。ここは通学路でね、よく悠司と二人で歩いたよ」
「……どんな話をしたの?」
「いろいろね」
やっと営業している店を見つけた。
2人は中に入って向かい合って腰かける。
いずれもホットコーヒーを注文した。
「ねぇ、おじさん。今日本番だろ? 調子はどう?」
すると新里は苦しそうな表情を見せた。
「今日、君を呼び出したのは……どうしても聞いて欲しいことがあって。こんな気分のままじゃ、とても演奏なんて……」
「どうしたの?」
ふと、周の脳裏にあの美しいバイオリニストの姿があらわれた。
「あの、バイオリニストの人とのこと?」
「うん……。最近、様子がおかしいんだ。いや、もしかしたらずっと、何かを隠しているんじゃないかって」
水を一口飲んで彼は目を逸らす。
すると、携帯電話の着信音が鳴り響いた。
新里は着信を押して電話に耳を当てた。
「……はい? 新里は私ですが……今からですか?」
……誰だろう?
「いや、しかし……少しお待ちください」
新里は送話口を手で抑えて周の方を見た。
「周君、今、県警の和泉さんていう人から連絡があって、今から少し話せないかって言われているんだが……」
「和泉さん?!」
代わって! と、周はひったくるようにして新里から電話をとった。
「もしもし、和泉さん?!」
電話の向こうで相手が絶句したのがわかった。
『……周君?』
「今、本通り商店街の【コーヒー屋さん】っていう喫茶店にいるよ!」
『どうしてかな……?』
「え?」
『どうして、周君が一緒にいるのかな』
「そ、それは……会ってから話すよ」
なんでだろう? 嫌な予感がする。
和泉の声音はまるで、恋人の浮気を疑うかのような重低音だった。
「周君、知ってる人?」
「うん、まぁ……」
ほどなくして和泉と、もう一人やや小柄な女性刑事があらわれた。
和泉は迷うことなくこちらに向かってくると、周の隣に腰を下ろす。
「新里宏樹さん、で間違いありませんか? 僕の可愛い周君と、いったいどういうご関け……」
「あ、あ、あの!! すみません、アレックス氏の事件について少しお話しをうかがいたいのですが、よろしいでしょうか!?」
和泉が余計なことを全部言い終らない内に、女性刑事が慌てて口を挟む。
「実は、私もそのことで伺いたいことがありました……」
その時になって初めて名刺交換をした。
「警察の発表では、通り魔による犯行ということでしたが、本当なのでしょうか?」
新里が訊ねると、和泉は真剣な表情になった。




