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記念に一枚

「わかっているんなら、とっとと失せろ! 仕事の邪魔だ!!」


 ああ、嫌だ。こういうのが大きな顔をして『警察』を名乗るから、一般市民から嫌われるのよ。

 

 思わず結衣は口を挟んだ。

「そんな口のきき方していいんですか? この人、それでも一応警部補ですよ?」


 警察内部で階級が何よりも物を言うことぐらい、結衣でも知っている。


 わかりやすく態度に出る人だ。

 相手は途端に、ぎょっとした。


 和泉は何も言わない。

 結衣がさらに何か言おうとした時、なぜか影山の表情が明るくなり、ニヤリと笑顔を浮かべた。


「ああ、嫁さんの力で昇進したっていうので有名な……」


 何それ?

 結衣は思わず和泉の横顔を見つめる。


 彼は無表情であった。


 ねぇ、もう行きましょう? と、亜沙子が影山を外に連れ出そうとする。


 が、影山は乱暴にその手を振りほどいた。


 亜沙子はバランスを崩して床に崩れ落ちそうになる。結衣は咄嗟に立ちあがり、彼女の身体を支えた。

 手や腕に怪我でもさせたらいけない、彼女はバイオリニストなのだ。


 代わりに結衣の方がソファの角で少し腰を打った。痛い。

 挿絵(By みてみん)


「そうだ、いろいろ思い出したぞ。あんた、かの有名な高岡警部の部下だろう? 揃いも揃ってポンコツばかりが集まった……」

 結衣は亜沙子をソファに座らせ、自分は立ち上がって影山に対峙した。


「かの有名な、ってどういう意味ですか?!」

 班長が何だというのだ。


 怒りやら、あまり良くないかもしれないが好奇心に動かされて、思わず結衣は大きな声を出してしまった。


 なおも言い募ろうと頭の中でいろいろ考えていた結衣を止めたのは、和泉の手だ。


 ごつごつした手が自分の左手を握っている。

 ドキン、と心臓が跳ねた。顔が熱い。


 しかし和泉はすぐに手を離すと、立ち上がって言った。

「失礼しました。かつては人事1課のエースと誉れ高かった、影山さんのことを失念していたとは。こんなイケメン、一度見たら忘れる訳がないのですが……」

 確かにイケメンの部類に入る。結衣はちっとも趣味じゃないけど。

 

 それにしても『人事一課』とは。

 元監察官ということか。


「お仕事のお邪魔をして、申し訳ありません。ところで……今では廿日市南署刑事課きってのエースである影山さんと、ここで会ったのも何かのご縁です。一緒に記念写真を撮ってもらえませんか? 仲間に自慢したいので」


 この男は何を考えている?

 結衣は目を白黒させるばかりである。


 それから和泉はポケットから自分のスマートフォンを取り出すと、

「うさこちゃん、撮って」

 訳がわからない。が、とりあえず言う通りにしよう。


 やや困惑気味な影山を完全に無視し、和泉は彼の肩を抱いてポーズをとっている。


「はい、じゃあ撮りますよ~」

 班長ならきっと、彼が何を考えているのかわかるのだろうな……。

 結衣はふと、羨ましいと思った。


「どうもありがとうございました。それでは、失礼します」

 和泉はさっさと玄関の方に歩いていく。

 結衣も急いでその後を追った。


「和泉さん! どういうことなんですか……?」

「どうやら、他の楽団員に話を聞いた方がよさそうだね」


 そうして和泉はスマートフォンを操作し始めた。

「一番、三村亜沙子と親しいっていう……ニイザトさんかな、シンザトさんかな。葵ちゃんもフリガナふってくれたらいいのに。この人に話を聞こう」


 あまりよくわからないが、結衣はとりあえずはい、とだけ返事をしておいた。

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