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いっせーの、で

 三村亜沙子とは宿泊先のホテルのロビーにある喫茶室で会う約束をしている。


 結衣は彼女と直接会うのは初めてだが、写真で見るよりもずっと美人だと思った。

 話し方も決して頭が悪そうではなく、むしろ賢そうな印象を受ける。


 果たしてこんな人が結婚詐欺に遭ったりするだろうか?


「私にお話しとおっしゃるのは……?」


「アレックスさんの殺害事件についてです」

 その名前を聞いた途端、表情が強張った。


「あの事件、ニュースでは確か……通り魔による犯行だって……?」

 さらさらの黒い髪を指でせわしなくいじりながら、亜沙子は目を泳がせた。


 どういう反応だろう?


 結衣は興味を持って彼女の顔を見つめた。

 

 質問は一応、結衣がしていいことになっている。

「西島進一さんをご存知ですよね?」

 その名前を出した瞬間に三村亜沙子は顔を上げた。


 これは結衣の印象に過ぎないのだが、決然と言うか、覚悟を決めたというか、そんな表情に見えた。


「はい。それが何か?」

「では、可奈子さん。名字はわかりませんが、西島さんの家の運転手をなさっていた方のお嬢さんです……お二人は同じ音楽大学に進み、ドイツへ留学なさったそうですね?」

 今度は微かに、相手の瞳が揺れた。


「そのことが何か、アレックスの事件と関わりがあるのですか? 彼とのことなら以前、別の刑事さんにお話ししたこと以外、特にお話しすることはありません。私は彼に騙されて、被害届けも出しましたが、それ以上のことは何もありません」

 口調は冷静だが、どこか声が上擦っている。


「可奈子さんは自殺されたそうですね……ドイツで何がありましたか? あなたなら、原因をご存知かと……」


 その時、

「なんだお前ら?!」と、やたらに居丈高な口調で背後から聞こえた。


 振り返るとスーツ姿の男が立っている。

 はて、どこかで見た顔のような気が。


 亜沙子は顔に安堵の色を浮かべて立ち上がると、男の腕に抱きついた。


「おい、どこの何者だ?!」

 ムカつく。


 結衣が警察手帳を示そうと手を動かすと、耳元で和泉が囁く。

『せーの、で同時にね?』

 何なの? この人……。


 逆らっても無駄というか、面倒なので言われたまませーの、で2人同時に手帳を示す。


「県警捜査1課強行犯係の……」

「和泉です」

「稲葉です」

 相手が怯んだのがわかる。


「……亜沙子に何の用だ?」

「あなたこそ、どちらの何様ですか?」

「……答える義務はない」

「言えないような立場ですか?」


 男は何か疚しいところがあるのか額に汗を浮かべている。和泉もそのことに気付き追い打ちをかけ、楽しんでいるようだ。

 ほんと、性格の悪い男。


「廿日市南署刑事課の影山だ!」

 なんだ、同業者じゃないの。


「あ、もしかしたらあの、外人詐欺師の事件を継続捜査している……?」

 そう言えば、所轄の刑事課で形ばかりに継続捜査をすると発表があったことを思い出す。


 その担当者ということか。


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