初めての海外なるか
午前6時半。
新聞配達員より少し遅いだろうかという早朝だが、班長の命令に従って全員が県警本部の刑事部屋に集まっていた。
負傷している日下部だけは例外である。全員が眠そうな顔をしていた。
その中でも和泉だけは元気そうだったが、なぜか不機嫌そうな表情である。
まぁ、この人の機嫌がよかろうがナナメだろうが知ったことではない。
結衣があらためて母親から聞いた情報を明かすと、
「班長、この人、詐欺被害者の一人ですよね? 確か、判明しているだけで相当な額を取られているはずです」
結衣は三村亜沙子の顔写真を指差して言った。
「やはりドイツで『何か』あったんだろうな……」
眠そうに目を擦りながら、班長は答える。
「……おいこりゃ、いよいよドイツ行き決定か?」
友永がおかしそうに言った。
それからなぜか彼は駿河の肩にポンと手を置くと、
「お前、ドイツ語か英語話せるか?」
「なぜ、既に僕がその役目を命じられる前提で話しているんですか?」
「そりゃお前、若いっていうのと、英語がしゃべれそうの2つだな」
「……自分は、日本語しかわかりません」
ふと結衣は、この二人は仲がいいのだな、と思った。
初めは果たして人間らしい感情が機能しているのかと思ったこの歳の近い刑事が、実はいたって普通の人間だったことを知り、驚くと同時に、和泉とは違う意味でいい加減を絵に描いたような中年刑事のコンビが、意外に上手くやっていることに感心した。
デコボコというか、磁石みたいというか。
意外と正反対のタイプの方が合うのかもしれない。
※※※※※※※※※
さて。
寝不足は全員で、皆が目の下に隈を作っている。
聡介もともすれば欠伸が出そうになるのを懸命に堪えてから、部下達を見回した。
「とりあえず、まずはこの三村亜沙子から話を聞こう」
すると駿河が発言した。
「……三村亜沙子ですが、彼女は今日と明日、こちらに……広島に来るようです」
「仕事か何かか?」
「彼女は、名古屋シティフィルの楽団員です。この楽団のコンサートが市民会館で予定されていました」
「私が行きます!!」
結衣は手を挙げた。
「女同士の方がきっと、話しやすいと思います」
聡介はうなずく。
「そうだな、うさこに任せよう。あと、彰彦。お前もサポートに回れ」
和泉は面倒くさそうに「は~い」と返事をしただけだった。
「おい、あれから何かあったのか?」
彼がこっそりと西島進一の実家前で張り込んでいたことは聡介も知っている。
「まさか、周君が西島進一の家から出てきたとか、そんなネタみたいな……」
「……」
「……」
「聡さん……」
「マジか」




