鑑取りとは交流関係の意味
……だったと思う、確か。
それから約15分。
結衣はアルバムから、おそらく該当の写真と思われる一枚を発見した。
広い日本屋敷をバックに赤い袢纏を着た男性が、おそらく息子夫婦と孫、それから結衣の母親を含めた使用人の何人かを集めて、集合写真よろしく映っている。
「あ、あった。これだわ。ああ、顔を見たら思い出したわ……」
母は写真を眺めながら感慨深げに呟く。
結衣は一言も漏らすまいと聴覚を研ぎ澄ませた。
「この子は可奈子ちゃん。西島家の運転手さんのお嬢さんで……早くにお母さんを亡くされてね。お父さんと二人、西島家の離れに住んでいたわ」
この子、と母親が指差したのは、正直ってお世辞にも美人とは言い難い少女だった。
目が細くて下膨れ。典型的な北部モンゴロイド系の顔立ち。とはいうものの、どこにでもいる平均的な容姿ではある。
結衣が驚いたのは、三村亜沙子も写っていたことだ。
見間違いではない。
詐欺被害に遭った女性達の顔は皆、記憶している。
特に彼女は飛び抜けて美人だったので印象深い。
今よりもずっと若い頃だろうが、顔立ちは変わっていない。
「お母さん、この人は……?」
結衣は写真の中の、亜沙子を指差した。
母親は少し記憶をまさぐる様子を見せたが、
「確か、近所に住んでる子で……そうそう、バイオリンが上手な子だったわ。西島さん家の遠い親戚だったかしら。名前は忘れちゃったけど……確か可奈子ちゃんと同い年だったの。進一君も可奈子ちゃんと、この女の子と一緒にバイオリンを習っていたんだけど……ああいうのって、やっぱり才能もあるのねぇ。進一君はすぐにあきらめてやめちゃったみたいよ」
と、苦笑する。
それから、
「可奈子ちゃんって、バイオリンの才能があったらしいの。この女の子にその才能を発掘されて、同じ音大を目指して……どこかに留学したって」
「この女の子と2人で、一緒に留学したの?」
結衣は亜沙子の顔を指さした。
「そう。でも最初はねぇ……留学って言ってもそれなりにお金かかるじゃない? こっちの子はお金に余裕のある家の子だったけど、可奈子ちゃんはね……お父さんにちょっと悪い癖があって、生活はいつもカツカツな感じだったのよね」
悪い癖とは恐らくギャンブルだろう。
「でもね、この旦那様って寛大な方なのよ。長い間運転手をしてくれたお礼にって、ボーナスとして可奈子ちゃんの留学費用を負担してくれたらしいわ」
「へぇ~……」
そこはあまり重要ではない気がする。
結衣は母親を急かした。
「そ、それから可奈子さんはどうなったの……?」
母親はふっ、と息をつくと答えてくれた。
「それがね……自殺したって聞いたのよ」
「どうして?!」
思わず大きな声が出た。
「さすがにそこまでは聞けなかったわよ。留学先で何かあったらしいけど」
「留学先って、まさかドイツ……?」
どうか当たりであって欲しい!!
結衣は祈るような気持ちで質問した。
「ああ、たぶんそうね。確か可奈子ちゃんのお父さんが、ドイツ語がどうとか言っていたから……」
最後まで母親の言葉を聞かずに、結衣は急いで上司の携帯電話番号にかけた。
「あの、西島進一の鑑取りについてなんですが……!!」




