久しぶりに暴れちゃうよ?
もはや、何も言うまい。
敵は全部で5名。
おそらく金を積まれて雇われた集団だろう。
彼らは2人が車から降りたのを確認すると、自分達もバラバラと車から降りてきて、あっという間に取り囲んだ。
「……依頼主は?」
立ち回りは久しぶりだ。
こんな時だというのにどこか楽しんでいる自分がいる。決して、暴力的なことを好む傾向はないと思うのだが。
和泉は特殊警棒を構え、拳銃を持ってこなかったことを少しだけ後悔した。
相手は果たして飛び道具を持っているだろうか?
少し脅すだけのつもりなら、さすがにそこまではしないだろうが、油断はできない。
「誰に頼まれたか答えたら、何もなかったことにしてあげるよ」
両手で鉄パイプを握った1人が、無言のまま和泉に襲いかかってくる。
ぶんっ、と空気を振動させる音。
和泉が攻撃を受け流し、するりとかわしてしまうと、バランスを崩した相手は前のめりになった。
振り返りざま、相手の背中に向けてグリップエンドを叩きこむ。
敵が地面に倒れたのを視界の端で確認する。
続けて2人目。
何やら雄叫びと共に、やたらめったに鉄パイプを振りまわして襲ってくる。
和泉はいったん後ろに下がり、敵との距離を空けた。
敵は必死になって追いかけてくる。
それから和泉は、足元にまだきちんとアスファルトで舗装されていない箇所を見つけた。
しゃがみ込んで幾らか小石と土を掴む。
そして。
一気に間合いを詰め、相手の目に向かって小石混じりの泥を投げつける。
2人目の敵は大きな悲鳴を上げて武器を捨て、よろよろと中腰状態で彷徨っている。
敵の手から離れ、地面に転がった凶器を和泉は足で遠くに蹴飛ばした。
ついでに。
手加減しつつ、顔に一発、拳をお見舞いしておく。
運転席に座っていた男が驚いた顔でこちらに走り寄ってくる。
男は手にサバイバルナイフを持っていた。
ひゅん、とナイフが空を切る音。
最初の一撃をかわした後、ちらり、と和泉は視線だけで聡介の姿を追った。
彼は射撃の腕なら県警トップの枠に入るのだが、白兵戦となると残念ながらやや不安が残ってしまう。
案の定、やや押され気味である。
あと少しだけ辛抱してください。と、和泉は胸の内で呟く。
「どこ見とるんじゃ、われぇ!?」
ナイフを持った男が凶器を振り回しながら走ってくる。
和泉が太刀筋を読んで器用に攻撃をかわすと、相手が段々と苛立ってくるのがわかった。
顔を真っ赤にし、額に汗を噴いている。
が。
どうやら攻撃対象を変えることにしたらしい。
ナイフを持った男が、聡介に向かって走って行く。
させるか!!
和泉は素早く男を追いかけて、その肩をつかんだ。
振り向く相手の手元に向かって、腰の位置から弧を描くように警棒を振り上げる。
そうして、ぎゃっ! と悲鳴を上げた敵は、手からナイフを落とした。
和泉は怯んだ相手の腹部に、思い切り蹴りを入れる。
相手が完全に地面に背中をつけたのを確認してから、ナイフを拾いあげ、和泉は聡介の元に駆け寄った。
聡介と向き合っている敵のうち、1人は完全にこちらへ背を向けており、いわゆるガラ空き状態である。
和泉は音を立てずに男の後ろに回り込み、その右肩に警棒を強く叩きつけた。
声もなく相手は撃沈する。
あと1人。
伏兵がいないか警戒しつつ、和泉は、
「こっちだ!!」と大声を出した。
敵の注意が聡介から逸れる。
何も言わなくても父は気付いてくれた。
彼は隙を逃さず、振り上げた警棒を敵の肩に向けて打ち下ろす。
それから和泉は倒れている男の1人を起き上がらせ、胸ぐらをつかんだ。
「……誰に頼まれた?」
「……」
「西島進一か?」
「し、知らん……!!」




