にゃんこはニャンコ
「あなた、何を考えているの?!」
「何って……ビアンカこそ、なんでそんなに目くじら立ててるの。しかも、その格好ってどう見ても……」
ビアンカはつかつかと進一に歩みよると、彼の両肩をつかんだ。
「もう終わったことでしょう?! これ以上、いったい何が望みなの?」
すると、進一は彼女の手を振り払い、
「言ってる意味がわからないよ」と、冷たく言い放つ。
何が何やらわからないが、とにかく場の空気が険悪だと言うことだけはよくわかる。
「ねぇ、僕いま忙しいんだ。見てわかるだろ? すぐ済む用事だって言うから了承したのに……空気読んでよ」
進一のとげとげしい言い方に、周はヒヤヒヤした。
「まさか進一、あなたが……?」
「僕が何?」
何を言い出すつもりだろう?
「もしかしてビアンカは僕が、アレックスを殺したと思ってる?」
進一はくすっと笑った。
「だとしたら、動機は何?」
ビアンカは少し黙っていたが、やがて口を開いた。
「カナコのことよ!!」
カナコ? 誰だろう。
「アレックスは死んだわ!! もう、それで終わりじゃない!!」
いったい何の話をしているのかわからないが、かなり重大な話には違いない。
すると進一は溜め息をつき、肩を竦めた。
「ビアンカ、どこかで頭でも打った? 変なこと言うね。周君、そういえば警察の人と知り合いだったよね。迎えに来てもらって、保護してもらう方がいいかな」
「進一……」
「周君、ごめんね。彼女を送ってくるから。あ、お皿はそのままでいいよ」
進一はビアンカを連れて部屋の外にでた。
なんだったんだろう……?
考えてもわからないが、何かとにかくただ事ではないと思った。
空いた皿はそのままでいいと言われても、そう言う訳にもいくまい。
とはいうものの人の家の台所は何がなんだかさっぱりわからない。
食器洗剤を探して周がしゃがみ込むと、食器棚と流し台の隙間に光る物が見えた。
なんだろう?
不思議に思いつつシンク下の扉を開くと、今度は何かが飛び出してきた。
「うわっ?!」
まさか、ネズミか?
すると。隙間からも、何かが飛び出してきた。
何か、開けてはいけないものを開けたのだろうか?
ドキドキしながら足元を見ると、ネズミではなく子猫だった。それも2匹。
垂れた耳が特徴のスコティッシュフォールドと、キジトラの子猫。
2匹とも伺うように周の方をチラチラ見ながら、後ずさりしている。
「なんだよ、いつからいたんだ? おいで」
周がしゃがんで手を伸ばすと、キジトラの方がおそるおそる近づいて来て指先に鼻を寄せた。
それから一生懸命に周の靴下を匂い、同じ動物の匂いがしたのか、警戒心を解いたようだ。
すりすりと頭を擦りよせてくれる。
スコティッシュフォールドの方も近寄ってきた。
子猫たちは周の足に登ってきて、しきりに匂いを嗅いでいる。
「あれ、周君?」
進一が戻ってきたようだ。
「あ、そんなところにいたんだ」
「お帰りなさい。ねぇ……この子達って生後何ヶ月ぐらい?」
「2ヶ月ぐらいかな。可愛いでしょ?」
ふと人の気配を感じて顔を上げると、すぐ傍で進一が微笑んでいる。
「こっちの子は、ペットショップで20万円以上出して買ったんだよ。で、こっちの子はネットで里親を募集していた人から譲り受けた雑種」
周はふーん、と生返事をした。
「どっちの子の方が価値高いと思う? 周君」
キジトラの子猫がにゃん、と鳴いて周の足に爪を立ててくる。
「……何言ってんの? 先生。同じ猫だよ。どっちの子も同じだけ可愛いよ」
両手にそれぞれ子猫を抱えた周は、キジトラの方に頬ずりした。




