俺TUEEEEEEE~?
そんなことより。
「日下部さん!!」
結衣は慌てて相棒に駆け寄った。
車からカバンを取り出し、ハンカチを探す。
鼻血が出ている。唇の端にも血が滲んでいた。
「大丈夫? ねぇ、大丈夫ですか?!」
「……まぁ、たぶん問題ない……」
彼は乱暴に手の甲で鼻と口のまわりをぬぐう。
思わず泣いてしまいそうになり、結衣は唇を噛んだ。
それより、と彼は座り込んだまま上を向く。結衣もその視線の先を追った。
どうやら賊はすべていなくなったようだ。近くにいるのは、突然やってきて助けてくれた謎の人物だけ。
街灯の角度のせいで顔がよく見えない。
わかるのはただ、どうやら男性らしいということだけ。
「あんた達、この近くの広島北署の刑事?」
謎の人物が話しかけてくる。
「いいえ、私達は……」
結衣が応えようとした時、相手は転がっていた彼女の携帯電話を拾って差し出してくれる。
その時、はっきりと顔が見えた。知らない人だ。
「あの、ありがとうございました」
「そのバッジ、捜査1課でしょ?」
捜査1課に勤務する刑事は皆、身分証明となる勲章代わりのバッジをジャケットに着けている。
それを知っているこの人物も、警察関係者ということだろうか。
結衣がそうだ、と答えると相手はやや大げさな仕草で肩を竦めた。
「……この県警も地に落ちたもんね」
謎の人物はそう言い残して去って行った。
悔しいけれど、結衣には何も言い返せなかった。
それよりも、今は日下部を病院に連れて行かなければ。
だけど。
ああして、恐らく暴力団関係者と思われる人物が襲ってきたということは……間違いなく西島進一はクロだ。
※※※※※※※※※※※※
この人は絶対に楽しんでいる。公私混同している。
駿河は水を飲みながら、楽しそうに笑っている相棒の横顔をじとーっと見つめていた。
西島進一の人物像を掘り下げようと、彼の在籍する大学で共に学ぶ学生達に話を訊く為に声をかけたのだが、今日はこれから女子会だと言う彼のゼミ仲間である数人の女子学生に対し、友永は嬉しそうに言った。
「俺達も仲間に混ぜてくれない?」
見た目はむさ苦しいただのオッサンだが、友永は意外と女性の扱いが上手い。
自分には恐らくできそうもない社交辞令や褒め言葉を並べたて、いつの間にか相手の心を開かせている。
そうして。紙屋町のとある居酒屋で、2人の刑事は気がつけば女子大生に囲まれていた。
友永はいきなり本題に入らず、彼女達の世間話に耳を傾け、頷いている。
自分は黙っておこう。
駿河はとにかく水だけを口に運びながら、キャアキャアと楽しんでいる女性達の会話に注意を集中した。
「……で、なんだっけ? 進一君のことだっけ」
アルコールがほどよく回ったらしい女子大生の一人が、眼を泳がせながら言った。
「そうそう、進一君。なんか知ってることあったら教えて?」
「彼~、ほら、お祖父さんがさ……」
「そうそう、政治家でしょ?」
そんなことは知っている。他にないのか。
「彼女とか、好きな相手っているの?」
ずいっ、と友永は身を乗り出して、いかにも興味津々と言った様子である。
女子大生達は顔を見合わせた。やがて一人が、
「……彼のこと狙ってる子なんて、掃いて捨てるほどいるんですけどね……なんていうか割と身持ちが固いっていうか……」
「そうそう。詳しいことは知らないけど、忘れられない彼女がいるらしい、ってもっぱらの噂ですよ?」
忘れられない彼女?




