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お坊っちゃまからのお願い

「そんなことが……」

 横領の実行犯は仲居頭である米島朋子らしい。経営を見てくれている会計士がそのことを突き止めたところ、彼は命を狙われるようになった。


 その会計士は和泉の友人で、周に頼まれて紹介したということだ。


 ふと、つまらない嫉妬心が沸いた。

 やめておこう。

 

 それにしても、捜査本部が立ち上がったというのに、和泉がふらふらと怪しい動きをしていたのはそういう訳だったのか。

「それから、つい先日のことです……」

 会計士の家族を呼んでしばらく宿泊してもらうことにしたところ、朋子はなぜかその妻が気に入らなかったらしい。


 旅館の仕事を手伝おうとしてくれる彼女に対し、何かと文句をつけていたが、先日とうとう、刃物を持ち出してきたのだ。


 そうして事態を治めようとした専務が負傷した。彼はこれを機に、いっそ別件逮捕という形で朋子に対して訴訟を起こすのだと言ったらしい。

 朋子は黙秘を続けているそうだ。


「なぜです? なぜ、あの仲居頭はそうまでして……」

 里美は静かに首を横に振った。

「わかりません……できることなら、私も知りたいです」

 彼女も本当に、心当たりがない様子だった。


 その時、駿河の携帯電話が鳴った。

 失礼します、と立ち上がり、店のエントランスに出る。


『葵、今どこにいる?』班長からだ。

「廿日市南署近くにいます……」

 詳しいことを言いたくなくて、お茶を濁した。

『すぐ県警本部に戻れるか?』

 はい、と返事をする。席に戻った駿河は伝票を取り上げてレジに向かった。


 里美が慌ててついてくる。

「あの、葵さん……」


 店を出て振り返る。彼女は困惑したような、泣き出しそうな顔をしている。

「あなたは何も悪くない。美咲も……」

「でも……!」


 ただ、と口にしてから駿河は里美を見つめた。

「お願いだから、もう何も隠さないでください」


 ※※※※※※※※※


 県警本部に戻る。

 刑事部屋にいたのは、班長1人だった。


 そもそも今日は本来、休みの日である。

「ああ、すまないな」

 上司もやや疲れた顔をしている。

「他の皆さんは?」

「……連絡はしてある。来るかどうかは、本人次第だが。彰彦は買い物に出かけたが、すぐ戻るだろう」

 どういうことだろう?


「なぁ……お前はどう思う?」

 自席に腰かけ、天井を見つめながら上司は言った。

 駿河は黙って続きを待つ。


「今回の事件の被害者だ。彰彦は……同情に値する被害者とは思えないと言っていた。お前はどう思う? 葵」


 確かに。

 何人もの女性を騙して金銭を騙し取った行為は立派な犯罪だ。


「本音を言えば、和泉さんのおっしゃることは理解できなくはありません」

 駿河が答えると、班長はそうか、とだけ呟く。

「しかし自分は警察官であり、刑事です。このままでいいとは考えられません。真相は明らかにすべきです……!!」


 あんな捜査本部の畳み方など納得できない。


 気がつけば上司は微笑んでいた。

「お前ならきっと、そう言うと確信していたよ」


 ただ今戻りました~、と和泉が部屋に入ってくる。

「あ、葵ちゃんだ。他の皆さんはまだですか?」

 と言っている間に、友永、日下部、うさこが集まってきた。


 顔ぶれが揃ったことを確認してから、

「皆、捜査本部は解散したが、事件そのものが終わったとは考えていない。引き続き、継続して追うことを考えている。ただし、これは俺の独断だ。賛同できないなら通常業務に戻っていい。手を貸してくれる者は申し出てくれ。責任はすべて、この俺がとる」

 一瞬だけ、部屋の中が静まり返った。


 そして、最初に口を開いたのは友永だった。

「何をカッコいいこと言ってるんですか、班長。俺達は一蓮托生……どこまでも、あんたについていきますぜ? 高岡警部」

「俺も、班長に従います!!」

「わ、私も!! 何でも命令してください!!」


 上司は嬉しそうに表情を緩める。

「自分は……自分も皆さんと同じ気持ちです。班長」

 最後に和泉が言った。

「じゃあ、いつものコンビでいいですよね?」


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