キャスト的には山村もみ……
里美がびくっと身体を震わせる。
「部外者になんて言うことを教えるの?! 重大な社外秘じゃない!!」
この人はいつもこうだ。
昔からずっとそうだった。
仲居頭の米島朋子。
経歴だけで言えば勤続30年以上、ベテランの域に入る仲居である。
しかし彼女は美咲と、その母親である咲子とをずっと昔から目の敵にしていた。
今ではその対象が里美にも広がっている。
要するに彼女は美咲と、彼女に味方をする人が全員気に入らないのだ。
その理由について古参の仲居で知らない者はいない。
美咲ももちろん知っているが、その件についてはこの際、脇に置いておこうと思う。
「だいたい、貴女がしっかり社長を支えないからこんなことになるのよ! 貴女さえもっとしっかりしていれば……そう、女将の肩書きに胡坐をかいて……社長の意見にいちいち反発してたっていうじゃない?! そんなことだから、こんなことになったんじゃない。いったい、どう責任を取るつもりなの?!」
これもいつものことだ。
何かトラブルが起きると、朋子はすべて『女将が悪い』とサルのようにキーキーと大騒ぎをするのだが、よく聞いてみると内容が一切ない。
学生時代は成績優秀で、担任の先生から有名大学に進学するよう勧められたこともある、などと吹聴していたが、本当かどうか疑わしいと思ってしまう。
とにかく彼女は常に感情的で、論理的ではない。
つまらない嫉妬だ、と皆が言う。
朋子が社長である寒河江俊幸の愛人であることは、もはや新入社員でさえ知っている、周知の事実である。
それに。
女将である里美はまだ30代前半。
若さと、持って生まれた美貌については、どう頑張っても敵う訳がない。
朋子は美咲の母親と同級生である。
加齢と共に、肌のハリが衰えていくのが恐ろしいらしい。
シミや皺を隠そうと、年々、化粧が濃くなる。
だから、若くて綺麗な新人が入ってくると、途端に彼女の攻撃対象になる。
些細なことでクドクドと文句を言い、怒鳴り散らす。
若い新人は新人で堪え症がなく、すぐに『辞めます』と言い出すのである。
本気でこの旅館を愛し、社長のことも愛しているのなら、自分だって『支え』になるべきだわ。
美咲はずっとそう考えていた。
自分がしていないことを他人に要求する。
それはただの傲慢であり、不遜である。
皆、そう思っている。
だけど、表立って言えないのはやはり、朋子の立場だ。
朋子が「あいつ使えない」と社長に言えば、途端にその仲居は首を切られてしまう。
表向きは彼女にそれなりに従っている仲居達が、姿が見えなくなった途端に悪口を言い出すのは、もはやお約束と言っていい。




