小説は現実より奇なり、ということで
驚いて聡介も腰を浮かせた。
「こんなことが許されて良い訳がないんです。西島進一も、本間静香だってそうです。親の立場を利用して……他人を傷つけ、まして殺害しておいて何の罪にも問われずに済むなんて、絶対に……許せない!!」
「彰彦……」
「もし、許可が下りないのなら……僕一人でもやります。決して聡さんにご迷惑はかけません。責任はすべて自分で負います」
長い付き合いでも、どこまでが本気か冗談なのか判別のつきかねる時の多い和泉だが、今ばかりは本気だとわかる。
自分だって決して納得している訳ではない。
このままでいいとも思えない。
「お前は、西島進一が本ボシだと考えているんだな?」
「……そうです」
「根拠は?」
「……西島進一しか考えられません。初めは動機がわからないし、物証もないので、ぼんやりと当たりをつけておいた、そんなところでした。けど、周辺を調べだした途端に圧力がかかるのは、どう考えても不自然です」
「刑事の勘って言うやつか? いいから、座り直せ。まわりの人に変な目で見られるだろうが」
「今さらですよ」
和泉は立ち上がって膝の土埃を払い、椅子に座り直した。
聡介は頭の中でいろいろなことを考えた。
刑事の勘ほど頼りになるものはない。
自分達は長い経験に裏打ちされた、独特の【眼】があると知っている。
何人もの犯罪者を見てきたから、それはよくわかる。
小説やドラマでは実は意外な人物が犯人だった、という展開が多いようだが、現実は意外と単純なものなのである。
ただ、今回の事件に関してだけは【動機】がいまいち不明なのだが。
現実は小説より奇なり、と言うが、その逆も然り、だ。
この男を放っておくと、最終的に自分がいろいろ『かぶる』ことは身をもって知っている。手元に置いて監視しておいた方がいい。
……なんて。
本当のところは少し羨ましいのと、恥ずかしさを覚えている。
ただただ真相を知りたいと言う情熱が、いつの間にか少し掠れてきていたかもしれない自分に気がついて。
上からの圧力なら仕方ない、一瞬でもそう考えてしまった自分のことを。
「もし……静香のことがなければ、正直言ってそれほど……真相を知りたいとは思わなかったかもしれません。なんて言ったら、また叱られますよね?」
和泉はそう言って子供のような表情を見せた。
まったく、変なところで正直だ。
「いいだろう。ただし……捜査に関する指示は俺が出す。それで文句ないな?」
結局、こうなるのか。
久しぶりに息子のまともな笑顔を見た。




