わりと本気です
それにしても、と和泉は深々と溜め息をついた。
「今回は一時期にいろんなことが重なりすぎて、さすがに参りましたよ」
「ああ、俺もだ」
次から次へとトラブルの連続だった。正直って頭が混乱しかけている。
和泉はいつになく真剣な顔をして、
「聡さん……あの、ここ最近はいろいろ本当にすみませんでした」
そう言ってすぐに目を逸らしてしまう。
「……どこかで頭でも打ったか?」
すると息子はムっとした表情を見せた。
「他人に謝罪するよう言っておいて、自分が黙っているのは道理に合わないと思ったからです」
確かに。
和泉の好き勝手は毎度のこととしても、今回はさすがに限度を越えていた。本人にも自覚はあったらしい。
「なるほどな。俺も、コロコロ意見を変えたりして悪かったな」
苛立ちが募るあまり、捜査から外れろと言ってみたり、戻れと命令してみたり。
「ほんとですよ」
「……」
少しの間、2人に沈黙が降りた。
「ところで聡さん。これからどうします?」
和泉はケーキのフォークを手で弄びながら、宙を見つめて言う。
「……何がだ?」
「外人詐欺師殺人事件の方ですよ」
まるでテレビドラマのタイトルのようだ。
「本部は解散して、後は所轄で継続捜査だろう」
すると和泉はまっすぐに見つめてきた。
「……納得してます?」
そんなことがある訳ない。
あれが、通り魔による犯行だと?
聡介は努めて苛立ちを隠しながら、ぬるくなりかけた紅茶を飲み干した。
返事をせずに黙っていると、
「いつものパターンですかね?」
「いつものパターン……?」
息子はニヤリ、と嫌な笑いを浮かべる。
「覚えてます? 聡さんの率いる……我々、強行犯係高岡班が上からなんと言われているのかを」
時々忘れる。
「お前……何を考えてる?」
「僕が考えているのは、ただ一つだけですよ。事件の真相を知りたい」
和泉はいつになく真剣な顔をしていた。
「ダメだって言われても、勝手にやりますよ?」
そう来ると思っていた。
この男を突き動かすのはいわば『好奇心』みたいなものかもしれない。誰がどうしてそんなことをしたのかを知りたい、という。
だけど。
警察組織において、そういった純粋な好奇心は時に目を摘まれる。
和泉は、自分ほどには『政治』を知らない。
推理小説に出てくる私立探偵にはいわば【しがらみ】などない。
彼らはただ、事件の真相を明らかにする。それだけだ。
だが……。
いい加減にしろ。
甘えるのも大概に……聡介がそう、口にしかけた時だ。
「聡さん、怒ってます?」
「……」
「僕がいろいろ、気まぐれみたいなこと言うから……」
わかってるじゃないか。聡介は無言でいることで、肯定の意味を示した。
すると。
向かいに座っている和泉がいきなり立ち上がり、地面に膝をついた。
「捜査を続けさせてください!!」




