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頭脳と心は別

 それから聡介はふと、感じたことを口にした。

「俺の勘だが、彼女……ビアンカさんは、あのドイツ人男性殺害事件に絡む、何かを知っていて隠しているような気がする」


 そう考えたのには理由がある。

 和泉が静香に渡そうとしてた花束。黄色いバラと黄色いカーネーション、そして水仙。


 いずれも花言葉は、あまり他人に送るには相応しいとは言えない。


 被害者の遺体発見現場に備えられていたのは、それら、どちらかと言えば侮蔑の意味を込めた黄色い花束。

 いったい誰が備えたのか、肝心の警官達は誰も見ていないと言う。


 さきほど病室で、踏みつけられたそれら黄色い花達を目にしたビアンカの表情を見た瞬間、聡介は彼女が何かを知っている、と直感した。


 あの時、彼女も献花のために現場を訪れたはずだ。

 もしかしたら誰があの黄色い花束を供えたのか、目撃しているかもしれない。


 それに。彼女は西島進一の友人だと言っていた。自分達の知り得ない、何か重要な情報を知っているかもしれない……。


 そうかもしれませんね、と和泉は素っ気ない返事をしてコーヒーを飲んだ。


 しばらくは二人とも黙って、それぞれ思考の世界に入った。


「ねぇ、聡さん」

 和泉が不意に、しんみりとした調子で話し出した。

「キャリアってそんなに偉いんですか?」

 偉いかそうでないかと言われたら、超難関の国家試験をパスしたという意味ではすごいとしか言えないが……人間としてどうかと言われたら、わからない。


「なぜだ?」

 紅茶を口に運びつつ、聡介が訊ね返すと、

「……同じような事件が起きて、一人は留置場。身寄りもなければ、面会に来る者もおらず、黙秘を貫いている……」

 誰のことを言っているのがすぐにピンと来た。


 美咲の実家が経営する御柳亭の仲居頭が先日、傷害事件を起こして廿日市南署に留置されていることは、聡介も聞いている。ずっと黙秘を貫いていることも。


 聡介自身は逐一様子を見ていた訳ではないため、報告を聞いているだけだが……その米島朋子という仲居頭に関しては、職場の同僚を刃物で切り付け、おまけにもれなく殺人未遂と横領の疑惑もついている。


 弁護士を呼べと騒いでいるそうだが、今のところ彼女の為に国選弁護を引き受ける者はいないらしい。


 そう言えば今は、そっちの問題も抱えていたのだった。


「それなのに。父親がキャリアだからという理由で……あんなふうにやりたい放題、何をしても言っても許されると勘違いしている人間もいる」

「彰彦……」


 何とかしてやれないだろうか。


 どうにか、皆が納得する終わり方は……。

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