怒り新党
「……これぐらいで済んだことを、ありがたいと思うのね。よくわかったわ。親が親なら子も子だってことが!!」
しぃちゃん!! と、和泉のかつての義母は悲鳴を上げる。
「大丈夫? 痛かった?! ねぇ、お医者様に……!!」
すると。
ビアンカは謎の言語で何か叫び始めた。
人は感情の高ぶった時、思わず母語が出るものだ。和泉も英語なら少しはわかるが、それ以外の言語となるとさっぱりわからない。
が、とにかく今、彼女の怒りが頂点に達しているであろうことだけはわかる。
そして彼女が怒るのも、まったくもって当たり前だと。
やがて。
「もう二度と、私の前に現れないで!!」
そこだけは日本語だった。
しばらく呆気に取られていた母娘だが、やがて気を取り直すと、
「こ、このままでは済ませないんだから……!!」と、下手な小悪党みたいな捨て台詞を吐いて出て行こうとした。
和泉は彼女の為に買った花束を渡すことにした。
「待って。これ、僕からの餞別」
黄色いバラと黄色いカーネーション、そして水仙。
静香はそれらに一瞥くれると、
「いらないわよ、そんなもの!!」
彼女は和泉の手を振り払った挙げ句、花達を踏みつけて去って行った。
「かわいそうに……花にはなんの罪もないのにね」
和泉は花を拾い上げた。かわいそうだが、これらはゴミ箱行きだ。
それから、ビアンカのために買ってきた別の花束を渡す。
彼女の為に買って来たのは、元気が出るようにと花屋の店員に頼んで包んでもらったものである。
「……」
しかし、なぜかビアンカの顔は強張っていた。
「……どうかなさいましたか?」
和泉が声をかけてもしばらく返事はなかった。
彼女の視線がどこを向いているのか、わからない。
つい先ほどまで心底怒っていたくせに、今は何を思うのか、どこか沈んだ顔色をしている。
なんでもありません、と流暢な日本語で返し、彼女はベッドに戻った。
それから何か思うところがあるのか、それきり黙り込んでしまった。
「ビアンカさん」
彼女に声をかけたのは聡介だった。
「お騒がせして、申し訳ありません」
彼女はまだ何か考え事をしているようで返事をしない。
父がこちらを見る。
和泉は肩を竦めてみせる。
駿河は相変わらずの無表情だ。
ビアンカさん、と再度声をかけるとようやく我に帰ったようだ。
「え、何……?」
これからどうしますか、あるいは訴訟を起こしますか?
聡介が口にしたのはそのいずれでもなかった。
「たとえ、すぐに思うような結果があらわれないとしても……今は理不尽に思えるようだとしても……必ず、正義は施行されます。させてみせます」
すると。
ビアンカはなぜか顔をゆがめ、そうして泣き出しそうな表情になった。
「どうなさいました?」
彼女は首を横に振り、
「ちょっと疲れたから……少し休ませてください」
そう言われては無理強いできない。
刑事達は病室を後にした。




