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軽蔑とか自己愛とか、嫉妬ね。

 それから和泉はちらりと別れた妻を振り返り、

「黄色いバラと、黄色いカーネーションと、水仙を一本づついただけますか?」

 店員は不思議そうな顔をしたが、かしこまりましたと返事をして奥へ引っ込む。


 花を用意した後は菓子屋へ向かう。

 菓子折りを購入した後、和泉は再び病院へ向かって歩き出した。


 初めは何も言わずについて来ていた静香だが、段々と不信感を覚え始めたらしい。

「ねぇ……どこに行くの?」

 絡めていた腕を放そうとするのを、咄嗟に捕える。


「いいから」

 別れた妻ははっきりと、顔に不快感をあらわした。


「教えてよ、ちゃんと! あなたっていつもそう。私に何も言わないで、勝手にいろんなこと決めて……!!」

「そこはお互い様じゃないか」

 一言の相談もなしに離婚を決めたのは誰だ。和泉は胸の内で呟いた。


 何はともあれ、この女を病院に連れて行き、被害者に謝罪させなければならない。


 和泉は無言の内に静香を引きずった。

 すると案の定、ここが人通りのある往来だということも忘れているのか、彼女は喚きながらもがいている。すれ違う通行人が何事かと振り向く。


 そのうち通報されるかもしれないが、それならそれでいい。


 力の差は歴然だ。和泉は無理矢理彼女を引っ張ったまま、商店街から大通りに出た。


 信号待ちのために足を止めた瞬間だった。

 細いヒールで思いきり足を踏まれた和泉は、あまりの痛みに一瞬力を緩めた。


 静香はその隙に逃げようとしたが、そうはさせない。


 とっさに腕をつかんで引っ張ると、彼女の横面を思いきりひっぱたいた。


 本来、女性に暴力を振るうのは最低な男のすることだと和泉は考えているが、この際はそうも言っていられない。


 元妻は顔いっぱいに驚きの表情を浮かべ、しばらく黙っていた。きっと親にもぶたれたことはないのだろう。


「……痛い? そりゃそうだよね」

 青信号が点滅しているがそんなことはいい。


 和泉は足を停め、身体の向きを変えて向き合った。 「でも昨日、君が傷つけた相手は、もっと痛い思いをしたんだ。その上、なんの関係もないのにだよ」

 すると。

 見る見るうちに静香の顔に怒りが浮かぶ。


「そんなの、あの金髪女が勝手に割り込んできただけだわ!!」

 予想通りの反応ではあった。が、腹の立つことに変わりはない。

「いい加減にしろ!!」

 和泉は思わず怒鳴ってしまった。


「僕は君のそういう、自分中心でどこまでも勝手なところが、本当に嫌だったんだ!!」

 思わず口にしてしまった。

 夫婦でいる間はずっと我慢していたのに。


「……やっぱり、あの美咲って女とできてるの?! そうなんでしょう?!」

 およそ論理とはかけ離れた、感情のまま、その時に思いついたことを適当に口にする。それもたまらなく嫌だった。


 その時だった。地域課の制服警官二人組が駆けつけてくる。


「……どうしました?」

 和泉は仕方なく、同業者であることを明かした。


 二人組の制服警官はなんだ、と肩を竦めた。

「お騒がせしてすみません」行くよ、と和泉は静香を引っ張り、信号を渡ろうとした。


 ところが、彼女は思いがけないことを言い出した。

「お巡りさん、助けて!! この人は人さらいなの!! 私の父は、本間警視正……県警本部長よ!!」


 去年までのね。

 和泉は胸の内で呟き、呆気に取られている制服警官達を尻目に、再び静香を引っ張って病院に向かい歩きだす。


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