とにもかくにも
下手な終わり方をすれば、また同じような面倒事が起きるに違いない。
これを機に、完膚なきまでに叩きのめしておくべきだろう。
和泉は椅子から立ち上がった。
「聡さん」
父は顔をあげる。物憂げな表情だった。
「ちょっと出かけてきますね」
「どこへ行くんだ?」
「いろいろと、面倒なことを片付けに」
それだけで意図は伝わったらしい。
そうか、と頷いたあと、
「……俺も、少し出てくる。葵」
聡介はなぜか駿河を呼んだ。
それから2、3言交わしたあと二人の方が先に刑事部屋を出た。
何だろう?
和泉はいぶかったが今はそれどころではない。
上着に袖を通し、携帯電話を手に持つ。
別れた妻の連絡先は知っている。
戦闘開始だ。
※※※※※※※※※※※※
聡介はビアンカの見舞いに行くつもりだった。
怪我をさせた本人が謝罪に来れば、示談にしてもいい。彼女はそう言った。
示談成立か否かはともかくとしても、人として謝罪させるのがまず当たり前のことである。
駿河を連れてきたのには理由がある。
ただ、彼にはまだ詳しいことは話していない。ちょっとした刑事事件の事情聴取に向かうから一緒に来い、としか。
ビアンカが怪我をした原因に関して、いずれ彼の耳に入ることがあれば、知りたいことがたくさんあることだろう。自分も知りたい。
和泉があれほどまで、美咲の為に一生懸命になる理由を。
まずは見舞いの品と看護師達に差し入れをするため、商店街に向かう。
昨日が和菓子だったから今日は洋菓子にした。
買い物を済ませ、病院へ向かう途中。ふと聡介は訊ねた。
「なぁ、葵。お前、彰彦をどういう人間だと思う?」
「まったく理解できない人です」
わかっていた、そういう即答だと。
「ただ……とても優しい人だと思います」
それは意外な返答だった。
「本気でそう思うか?」
「はい。今朝まで、自分が昔いた廿日市南署に戻って気付きました。今の捜査1課の仲間達は高岡警部をはじめとして皆、とても優しい人達だと」
聡介も常に見張っていた訳ではないが、確かに廿日市南署の刑事課の空気はあまり好ましいものではなかった。
誰も彼も多忙を極めて苛立っているのか、それとも元々警察組織とはそんなものなのか。
互いを牽制し合い、足を引っ張り合い、醜い嫉妬心を隠そうともしない。
それに比べたら自分の部下達は全員、それぞれにクセはあってもなんだかんだと仲が良い。
少し緊張感が足りないような気もするが。
「和泉さんならあるいは……美咲のことも……」
「あー……そのことなんだがな……」
病院に到着した。




