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家族だけは別

 面会時間はすっかり過ぎているが、ビアンカの運ばれた病院が安芸総合病院という、馴染みの総合病院だったことにホッとする。


 聡介は病院近くにある、閉店ギリギリの和菓子店に飛び込み、残っていた商品をかき集めるようにして購入した。


 それからナースステーションに寄り、もはや顔馴染みとなった看護師たちにも差し入れを渡した上で、ビアンカの運ばれた病室に向かう。

 部屋のドアは開いている。


 3人部屋の一番奥、窓際のベッドに被害者は横たわっていた。

 聡介は開いているドアをノックし、中に入った。


 昼間話を聞いた時にはたいした怪我ではない、とビアンカは言っていたが、明らかに無理をしているとわかった。

 部屋が薄暗いせいか、それとも本当に血の気がないのか、顔色が悪い。


「あら……」

 起きていたビアンカは、意外そうな顔でこちらを見つめてくる。

「遅くに申し訳ありません。これ、少しですがお見舞いです」

 聡介はサイドテーブルに和菓子の入った袋を置いた。


「まぁ、ありがとうございます。日本の警察官って律儀なんですね」

 ビアンカは微笑む。


「……誰か、事情を聞きにきましたか?」

 事情聴取に来るとなれば廿日市南署の警官だ。

 来たとしてもどうせ、事実を歪めた前提で、自分達に都合の良い方向へと誘導するような訊き方をしたに違いない。今年の廿日市南署署長が誰かを、聡介は知っている。


 今の捜査一課長と同じ。保身第一主義だ。


 本間静香の供述を「正」とし、都合の悪い供述は一切省いて調書にまとめるよう、部下に命令しているに違いない。


 聡介は彼女が何と答えるのか、やや身構えていた。


 すると、

「あなたは……他の刑事とは違うみたい」

 思いがけない返答に聡介は戸惑う。


 初めて会った時から、彼女はこちらの胸中をずばり言い当てるような気がしていた。

 そんなに顔に出していただろうか?


「私の話を信じてくれそうだわ」

「……もちろんです。大切なのは真実であり、事実です」

 ビアンカは微笑む。

「だったら、あなたにだけ本当のことをお話しします」


 彼女はアレックス……被害者の遺体が遺棄されていた現場に花を手向ける為、あの現場に向かったと言った。

 花束と祈りをささげ、そうして帰ろうかと振り返った時、偶然にもばったり美咲と出会った。


 少しお茶でも飲んで帰ろう、とビアンカが誘った時、友人の後ろに静香がいたのを見つけたらしい。


 尋常ではない眼つきだった、とビアンカは語る。

「和泉の新しい彼女? とか、返して……とかなんとか。とにかく、これはマズいと思って咄嗟に彼女を庇ったんです」

 無茶をするものだ。

「殺意はなかったと思います。でも、わりと危ない様子だった。ポケットから刃物を取り出して……真っ直ぐにこっちへ向かってきた。初めは何が何やら、訳がわかりませんでした。そもそもこっちは『和泉』さんって誰? っていう話ですもの」

 そうですよね、と聡介はしみじみと深い息をついた。


 それからどうなりました? と先を促すと、ビアンカは溜め息をつく。

「……美咲が近くにいた警官を呼んでくれて、すぐに犯人は捕まりました。それから救急車を呼んでくれて、病院に運ばれた。以上です」

「つまり、突然に向こうが襲いかかってきた……そういうことですね?」

 ビアンカは頷くことをせず、首を横に振る。


 そのリアクションに聡介は戸惑った。


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