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ファザコンがマジギレしたのニャ~

 聡介はノックもせず、呼ばれてもいない、という事実を考えないで中に飛び込んだ。


 案の定だ。


 和泉は課長の胸ぐらをつかみ、今にも殴りかかりそうな勢いを見せている。

 その表情はまさに【怒り狂っている】という状態である。


 聡介は和泉を上司から引き剥がし、襟首を掴んで部屋の隅に引き摺っていく。思ったよりも抵抗はなかった。


 そうして。なるべく課長の視界に入る角度を選んで、聡介は和泉の頬を強く叩いた。


 感情に任せて上司に暴力をふるったなど、縦社会の警察組織の中にあって、タダで済む訳がない。

 左遷、下手をすれば懲戒免職にまで追い込まれる可能性が高い。


 まだこの男を失う訳にはいかない。

 捜査1課に、県警に和泉は絶対不可欠な人材だ。


 いま何が起きているのか、やや和泉は理解していない様子だった。


 聡介は彼の頭を抱え込んで深くお辞儀させると、自分もまた頭を下げた。

「申し訳ありませんっ!!」

 返事はない。

「部下の教育が行き届いていないのは、私の不徳のいたすところです! 以後、充分注意し、二度とこのようなことがないように……!!」

 課長は黙っている。


 いつもなら、まったくだよ、とグチグチ嫌味にもならないボヤキを呟く上司が、めずらしいことに何も言わないでいる。

 聡介がおそるおそる顔を挙げると、課長は青い顔で震えていた。


 見てはいけないものを見てしまった恐怖というか、そんな表情にも見えた。

「た、た、高岡君……! 早く、その男をなんとか……き、君の息子だろう?!」

 一刻も早く出て行け、と言われているのだと悟った聡介は、どこか焦点の合わない眼つきでぼんやりしている和泉を肩に抱え、執務室を後にした。



「……何を言われたのか、だいたい想像はつくが」

 課長の執務室は7階。捜査1課の部屋は3階。

 3階の廊下を和泉と並んで歩きながら、聡介は真っ直ぐに前を向いて言った。

「少し頭を冷やせ」

 廊下の一番奥、自動販売機の並んでいるスペースにあるパイプ椅子に和泉を座らせ、聡介はいったん刑事部屋に戻って上着に袖を通す。


 部下達は全員、廿日市南署に詰めている。


 ふと、不安な気持ちにかられた。

 いまのところ被害者であるアレックスを殺害した犯人として有力視されているのは、西島進一である。


 だが、動機がわからない。


 二人の間に金銭トラブルがあったか、あるいは他に何か怨恨があるのか。


 友永が少し前に言ったことがある。

『もし奴が、民自党幹事長の西島義雄の縁者なら、面倒なことになりますよ』

 それはそうだろう。


 そして調べたところ、進一は本当に西島義雄の孫だった。


 こういった政治家縁者絡みの案件に、上からの圧力がかかって、いつのまにか有耶無耶にされてしまうのは、多くのテレビドラマや小説で扱われているが、事実である。


 警察は役所だ。

 決して、本当の意味での正義の味方などではない。

 

 たった今別件で、それも至って個人的なトラブルに、県警本部長の娘が関わっていたということで大騒ぎをしているような状態なのだ。

 

 この事件は迷宮入りするかもしれない。

 聡介は重い気持ちを抱えたまま、本部を出た。


 さて。


 まず、どちらから手をつけるべきか……。


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