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課長じきじきに

「聡さん、これを見てください」

 和泉は自分のスマホの画面を聡介に見せた。


 受け取った父は、遠ざけたり近付けたりして、画面に見入っている。

「おそらく、被害者に対するメッセージでしょう」

 いずれもおよそ、死者に対する餞としては相応しくないように思える。


「……詐欺被害にあった女性の内の一人だろうか?」

「わかりませんが、その可能性は高いと思われます。誰か、見張りの警官が目撃していないかどうか聞いてみましょう」

 和泉はすぐ近くにいた、まだ若い制服警官を呼んだ。


 誰が献花に訪れたかを見なかったか訊ねると、相手は気まずそうに答える。

「……それが、たぶん騒ぎのあった直後なんじゃないかと思うんですよ。聞いてます? ほら、あの本間警視正のお嬢さんがここでトラブルを起こして……」

 聞いている、というか既に知らされている。

「話を聞いた課長が飛んできて、全員集めて周知のゴタゴタで、誰かが花を手向けに来ていたとしても、誰も気づかずにいたと思いますよ?」


 念の為、他の制服警官にも聞いてみたが、答えは同じだった。


 あの女が捜査の足を引っ張ったのだ。

 そう考えたら段々と腹が立ってきた。


 嫌でも、一度は会って話さなければならない。

 日本語の通じる相手だとも思えないが。


 そんなことを考えていたら、和泉の携帯電話に着信があった。

 捜査1課長の大石警部からだ。

 こんなことはめずらしい。


 大石課長と言えば、上司へのご機嫌伺いだけで1課長の椅子を手に入れた、と長く県警に勤めている者なら知らない者はいない、というほどの木偶の坊である。

 現場のことは何も知らない。


 部下達がまとめた書類も、ロクに目を通さずに判子だけを押す、ともっぱらの噂である。

 影でひそかに【判子押しマシーン】と呼ばれている。


 その課長が直々に和泉の携帯電話へかけてきた。

 それだけに、なんとなく嫌な予感がしてならない。

「……和泉です」

『……すぐに、県警本部へ戻ってこい』

 課長の濁声が聞こえる。どうやらご機嫌斜めのようだ。

「なんで今、このタイミングでそんなことを仰るんですか? つい先ほどまで本土にいて、実況見分のために宮島へ再度渡ったところなんですけどね」

『つべこべ言うな!! 命令じゃ!!』


 聡介が心配そうな顔でこちらを見つめてくる。

「……課長からか?」

「すぐ、本部に戻れと言われました。冗談じゃないですよ、一日に何度往復させれば気が済むんですか」

 行くぞ、と聡介は和泉の背中を押す。


 多くは語らない父から、今は言われた通りにしろ、と言いたいのが伝わってくる。


 実況見分はひとまず、管轄である廿日市南署地域課に任せることにしよう。


 刑事課が出てくるほどの大げさな話には……ならないだろう。何しろトラブルの原因を作ったのが、あの元本部長の娘なのだから。


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