黄色い花束
弥山の裾野、ロープウェイ乗り場の程近くが現場だが、まだ黄色い規制線が張られている。
制服警官が欠伸をしながら立っていた。
「ダメダメ、入っちゃ!!」
まだ遠くにいるのに、と美咲がびっくりした時、もう少し先に別の人影が見えた。
長い金色の髪。
少し背の高い、その女性の後ろ姿はもしや……?
「ビアンカ……?」
「美咲!?」
振り返った女性は間違いなく、自分の友人だった。
「やっぱり。どうしてこんなところに?」
ビアンカは驚いて、それから肩を竦めた。
「一応、アレックスのためにお花でもと思って。でも、中には入れてもらえないのね」
友人は制服警官をちらりと見て言った。
「無理ないわ」
美咲は現場から少し離れた場所ではあるが、ビアンカが持ってきた花を一緒に捧げた。
花束は他にもいくらか置いてあったが、その中で一際目立つ物があった。
全体的に黄色いのである。
黄色いバラ、黄色いカーネーション、そして水仙。
美咲はそれほど花ことばに詳しい訳ではないが、黄色いバラにはあまり良い意味がなかったように記憶している。
誰が持って来たのだろう?
そんなことを考えながら、無言の祈りを捧げた。
「ビアンカ、今日はお休みなの?」
「ええ。ねぇ、美咲、これから何か予定ある? 一緒に……」
お茶でも、と彼女が言いかけた時、不意に目の前に一人の女性があらわれた。
「……誰?」
美咲はその女性に見覚えがあった。
確か、何度か和泉を訪ねてきた女性だ。
「あなたが『美咲さん』?」
「はい、そうですが……」
嫌な予感がした。
女性はつばの広い帽子に、黒いコートを着ている。どこか思い詰めたような眼がただごとではないと感じさせた。
「あなたなの? 和泉の新しい彼女って」
「ち、違います!!」
しかし、美咲の声は相手に届いていないように思えた。
「お願いよ、返して……」
ビアンカも普通ではない状況に気付いたようだ。
彼女は半歩美咲の前に出て、庇うように立った。
「ねぇあなた、少し落ち着いて。話ならこんなところじゃなくてもっと……」
次の瞬間。
キラリと銀色に光るものが目の前を走った。
「……!!」
ぽた、ぽた。鮮血が地面に落ちていく。
「ビアンカ!!」
ビアンカが右手で左腕を抑えている。
そうしている間にも、血が指の隙間を縫って流れ落ちた。
切りつけた女性の方は愕然として、膝を地に着いた。
「おまわりさん、助けて!!」
美咲は声を限りに叫んだ。
そして、急いで携帯電話を取り出し、救急車を呼んだ。




