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モニター体験

 じゃあ、今日はここまでね。

 若い家庭教師がそう言ったので、周は参考書を閉じて背伸びした。


 ドアの外で猫達がにゃーにゃー鳴いている。遊んでくれ、という催促なのか、それとも何か他に訴えたいことがあるのかわからない。


 今日、美咲は宮島の実家に行っていて不在だ。

 業務の手伝いではなく、何かトラブルが起きたようだ。詳しいことがわかり次第、連絡してくれるよう頼んであるが、姉からの報せはまだ届いていない。


 周がドアを開けると、猫達が部屋になだれこんでくる。

 プリンは周に向かって「にゃー」と一声鳴くと、いいからついて来い、と言わんばかりにお尻を向ける。

 メイは進一のことが気に入ったらしく、喉を鳴らして彼に擦り寄っていく。


「先生、晩ご飯食べて行く?」

「うん。いつもありがとう」

 周は台所に向かった。

 家庭教師が来る前に予めいろいろ用意していたので、あとは温めるだけだ。

 

 三毛猫は何が言いたいのか知らないが、さきほどからしきりにニャーニャー鳴いている。

 周は餌と水の皿を確認した。授業が始まる前に替えたばかりだ。少しも減っていない。

 

 美咲がいなくて寂しいのだろうか。

 そんなの、俺だって一緒だ……。

 

 周はしゃがんで三毛猫を腕に抱こうとして、するりと逃げられた。


「ねぇ、周君。突然だけど、今度の土日って何か予定ある?」

 茶トラ猫を腕に抱いた進一がリビングにやってくる。

「別に、ありませんけど……」

「実はさ、知り合いが宮島で温泉旅館経営しててね。すっごく料金の張る、離れの部屋があるんだけど、なかなか予約が入らないってこぼしてたんだ」

 そう言って彼はダイニングの椅子に腰を下ろした。


「前に少し話したことあったよね? 僕、宮島の……広島の観光業の活性化を目指していろいろ活動してるんだ。でね、知り合いが困っているっていうから協力してあげようと思うんだよね。実際に泊まってみて、写真撮ってSNSにアップして……それと、正直な感想を書いて。そこで、何の予備知識もない周君達ご家族に泊まってもらうのはどうだろう?って考えたんだ」


 宮島にはこないだ行ったばっかりだし、わざわざ泊まりがけで行くようなところでもないだろう……。

「なんていう旅館ですか?」

「白鴎館だよ。聞いたことない?」

 名前は知っている。


 そういうことならむしろ、姉の実家の旅館を応援してほしい。

「賢司さんから聞いたんだけど、今度の土曜日がちょうど二人の結婚記念日なんだってね。ちょうどいい機会っていうか、いいプレゼントになるんじゃない? って、こないだ話して、彼もわりと乗り気でね……」

 そこに賢司の意志が絡んでいるとなると、途端に周は反発を覚えた。


 姉の実家が大変な時に、他所の旅館の宣伝に使われるなんて冗談じゃない。

「もちろん、お姉さんの実家の方もちゃんと宣伝するよ。確か、日帰り入浴もやっていたよね?」

 こちらの胸の内を見透かしたかのように、進一が言う。

「いいことだよ。張り合う……って、いうのは言葉が悪いか。ライバル同士が切磋琢磨しあって、より上質なサービスをお客様に提供する。そうして宮島の観光業が活性化すればリピーターも増える。なんて言ったって、お姉さん美人だしね。美しすぎる若女将とかなんとか、煽り文をつけてネットにあげればきっと、話題になるよ」


 旅館の宣伝には大賛成だが、姉をあまり見世物にしないで欲しい。


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