気まぐれお父さん
和泉は溜め息をついた。
できるだけ会いたくないと思った父に、ばったり出会ってしまったのは、昨日傷害の現行犯で逮捕され、留置場に拘留されている米島朋子の様子を見る為、廿日市南署の留置場に向かった時だ。
優作も一緒にいた。
父は既にいろいろと事情を知っていた。
情報源は言わずもがな彼の長女だ。さらに、直接旅館に行って関係者から話を聞いたというのだから、もう何も隠せない。
「……様子はどうだ?」
「今のところ……ハンガーストライキをする様子もなければ、取調べの際、雑談には応じるそうです。しかし……」
「完全黙秘、か」
「あの仲居頭は」優作がいきなり口を挟んだ。「どこか余裕があるように見える。俺のような素人が言うのもおかしいかもしれないが」
「いや、優君の言う通りだよ。僕もそんなふうに見える」
「何か……目論見というか、根拠のある自信でもあるんだろうか」
拘留には期限がある。
米島朋子はその間ずっと、黙秘するつもりだろうか。
「とにかく、優作。お前はさくらと伊織のところへ帰れ」
聡介は野良猫を追い払うような仕草で、娘婿に言った。
それから、
「調書はもう取ったんだろう? あとは取調官に任せて、彰彦。お前もいい加減、こっちの捜査に戻れ」
「……でも……」
「これは命令だ」
外れろと言ってみたり、戻れと言ったり……。
「アキ先生。俺は一旦、旅館へ戻る。そして明日の夜には尾道へ帰る」
優作は踵を返した。
「そうなの?」
「あの旅館のことなら心配はいらない。万事上手く行くよう、手配はしてある」
自信たっぷりにそう言われると疑う気もしない。
それに実際、この男はちゃんと実績を残しているから信じることもできる。
「まぁ、ちょくちょく出向くことにはなるだろうがな」
「……美咲さんのこと、気に入ったから?」
「そう……何?」
「さくらちゃんと似たタイプだもんね、彼女。放っておけないよね」
聡介の顔が段々と強張っていく。
「ちょっと待て、それじゃまるで俺が……お義父さん?! この人の言うことは約8割本気にするなって……誤解です、誤解!!」
米島朋子を『支えて』いる物が何か、正直なところ和泉には、今回の事件よりもそちらが気になって仕方なかった。




